無責任軍師シンゾー

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『「言うことを聞けば票を回してやる」そう言って森元議員は無理やり…』  車に備え付けられたテレビから若い女議員が涙の告白をしている。歳のころはまだ20代そこそこ。議員とは思えない派手なメイクに露出の多い服装をしていた。だが胸に光る議員バッチが確かに彼女は政治家であることを物語っていた。  投票率の低下、政治の関心の低さを食い止めるため選挙権が15歳に引き下げられ、立候補も20歳から可能になった。それでも投票率の低さは相変わらずだったが国民的アイドルグループARAPが政界に進出したことによって状況は一変した。政治家大アイドル時代の到来である。中にはアイドルになるために政治家になるという本末転倒なことまで起きる始末。彼らに続けと若いアイドル議員があふれることになった。勿論それを快く思わない真面目な有権者もいたが党の推薦を受ければ話は別だった。例え神だろうが悪魔だろうが宗教だろうがアイドルだろうが節操なく使える者は使って党を強化することは消極的に支持され真面目な有権者の声は押しつぶされた。彼女もまたそうやって当選したアイドル議員の一人だった。 「自分から誘惑してきてよく言う」  森元はそう言うと忌々し気に煙草をふかした。今まさに世間を騒がしているセクハラ議員森元宗理その人である。  歳のころは80に届こうかと言うところだったが外見は60代に見える。内に燃える野心と他人に必要とされているという自負が彼から老いを遠ざけていた。しかしさすがに今は疲労の色が濃い。 「俺が票を回してやらなければ箸にも棒にも掛からぬ泡沫候補だった分際で」 「その通りですわ。あの女もそれでいい思いができたというのに」  そう言うと女がしなだれかかる。彼女は若くはないが匂いたつような色気があった。 「どっちにしろあの女は終わりでしょう。男の匂いのするアイドルなんて誰も興味を抱かないわ」 「お前はよくわかっているな」  森元はそう言うと女の太ももをなでた。ほど良くたるんだ肉付き。男好きのする体。若い女の張りのある肌も素晴らしいがこちらにはこちらの良さがある。 「それはもう。ずっと先生方を観てきましたから。自分がいかに未熟だか理解していますわ」 「もし次の総裁選に出るというのならその時は…」 「言ったはずですわ。私は自分が如何に劣っているか分かっていると。それにいろんな党を渡り歩いた私では派閥の票が割れるだけでしょう。私はただ先生を支えて差し上げたいだけ…」 「目狐が。可愛いことを言ってくれる」  森元は女を抱き寄せた。 「何が男女平等だ。何がLGBTだ。女はただ劣っているから政治家になれないだけなのだ」  森元は女を貪った。 『私のキャリアを考えたら黙っているべきだと脅されました。でも私は同じように苦しむ女性の為にも声を上げずにはいられませんでした』 『確かに今me too 運動は広がりを見せていますね』 『合意の上の行為だったのに後から暴行を受けたと言っているのでは? 海外でも問題になっていますよ。ジョニー・デップもその犠牲になったと言われています。おかげでもうあのジャック・スパロウの怪演は見られません』 『今回の場合は明らかにそうではないでしょう。現に世論調査でも内閣支持率が下がっており無視できない数字となっています』  ナレーターの声は続く。  女は森元が興奮するように時折わざと喘ぎながらじっとテレビを眺めていた。 「切り時かしらね」  ぽつりと呟いた声に森元は気付くことはなかった。  ・・・ 「もう守り切れませんよ」 『誰が総理にしてやったのか忘れたのか? 』 「で、ですが…」  スマホの向こうの森元は物凄い剣幕だった。ただでさえセクハラで女性議員に訴えられていたのにまた更に別のセクハラ問題がリークされたのだ。政界のドンと呼ばれた彼も今度こそ年貢の納め時だろう。ただし世間がそうであったも政界ではそうも行かない。森元は様々な業界と太いパイプで繋がっている。例えこれで政界を引退したとしてもその影響力は残る。決して無下に扱うことのできない存在だった。  現総理の河須にとって森元をどう扱えばいいのかは頭の痛い問題だった。河須が総理になれたのも森元の派閥からの推薦があったからだ。その力関係は電話でひたすら下手に出ていることからも伺い知れる。世論調査からは切った方がいいのは明白だったが本人が望まぬ限りそうはできない事情があった。  ジジジジジ…  セミの鳴き声が響く。  うだるよう暑さの夏の日。日光がアスファルトに照り返され見える景色をゆがませていた。今だ昭和の名残のある閑静な住宅街に不釣り合いなリムジンが駐車していた。後部席で冷や汗をかいて電話しているのは河須。現総理大臣。秘書である山上は運転席でそんな河須の様子を眺めていた。  目的地には少し前に着いたのだがとてもそれを言い出せる雰囲気ではなかったからだ。電話が終わるのを待った方がいいだろう。それまでの間、手持無沙汰で山上はなんとなく目的地のマンションに目を移した。  目的地のマンションは築50年を超えるおんぼろアパートだった。鉄筋アパートの耐久年数は50年ほどだからもう超えている。原発の廃炉、高速道路の無料化、ガソリン自動車からEV自動車への移行、先延ばしに先延ばしを重ねるそれらの事象と同じようにマンションの建て替えも先伸ばしにされたのだろう。50年前はまだ国が豊かだったからアパートも今のよりずっと立派なものが作られていた。今のマンションは材料費を浮かせて安く済ませようとしているからここまで長持ちすることはないかもしれない。 「全くあの狸爺めが…」  話が終わったのか河須が電話をしまう。 「ようやく後継者を指名したと思ったのに未練たらしい」 「後継者って言うのはここに住んでいるっていうお孫さんですか先生? 」  山上はマンションを指して言った。森元の孫に会いに行くのが今回の目的だった。 「そうではない。後継は子供だよ。養子だがな」 「養子ですか。お孫さんもいるのに? ああでも」  言ってから山上は森元の実子はすでに亡くなっていたことを思い出した。 「いるだろう。ここに」 「? 」  しかし河須はそんなことを言い出す。どうも話がかみ合わない。  亡くなった本当のお子さんの子供、つまり孫があのマンションに住んでいる人物だと思っていたのだがどうやら違うらしい。 「住んでいるのは孫ではなく本物の子供なのだ。表向きは孫だが、いい歳して若い女を孕ませたのだよ。あれだけ盛んなんだ1人や2人じゃないぞ。二桁はそういう子供がいる」 「なるほど」  山上は納得した。そして呆れた。戸籍上は孫の息子が住んでいるらしい。しかもそういう認知していない隠し子が二桁はいるらしい。 「本当の子供がそれだけいるのに養子が後継者だ。おかしな話だろう? 最も後継者も本当の子供だという話もあるがな」 「養子って大体親戚の子供からもらいますよね? 」 「そうだ。弟の子供が今の養子だ。ただ弟は男色家でな。妻には森元の愛人をあてがったから本当は森元の子供だと言われている」 「それは…聞いても良い話なんですか? 」 「ネットでググれば出てくる話だ。真意は不明な噂話としてだがな」  公然の秘密だから言っても構わないという事らしい。 「勿論認知はしていない。他の子供達も金を渡してもみ消してある。だが今回の何と言ったか…」 「上木晋三ですか? 」  それが今回会う森元の隠し子の名前だった。 「そう上木の母親は森元の親友の孫でな。気にかけているようなのだ」 「そうですか。それはいい話…でもなんでもないですね。親友の孫に手を出して子供を産ませて放置とか最低じゃないですか? 」  山上はうっかりいい話だと思いかけてセルフつっこみをいれた。 「そうだ最低なのだ。だが当社比では気にかけていてな。上木が引きこもりとなっているのに心を痛めているのだ」 「ニートですか? 」  ニートが社会問題になって久しい。頑張って働いてもたいしてお金を儲けることのできない社会構造。SNSによる持つ者と持たざる者の可視化。資本主義の限界。それが最初から頑張らない若者達、ニートを大量に生み出していた。それはもう何十年も昔からの話だった。今は最初のニート世代はそのまま老後を迎え年金も社会保障もうけれない見捨てられた者達として社会問題になっている。そして今もその社会構造は改善されずにニートは各世代に一定数存在していた。 「行きつく先はホームレスですよ。気が知れませんね」 「ニートではない。引きこもりだ。あのアパートから一歩も外に出てこないらしいのだ」 「心の病と言うことですか? 」  一色単にされがちだがニートと引きこもりは別物だ。ニートは働けるけどあえて働かない者。引きこもりは主に精神的な問題で家から出ることすら困難な者。実際8割は病気だと言われている。 「分からん。だが首相に会えば引きこもりを辞めると言っているらしくてな」 「それで本当に会いに来たんですか? 」  須河が極秘に森元の孫に会いに行くと言い出した時はてっきり次の選挙の布石かと思ったのだが全く明後日の理由であったらしい。 「上木の母親は森元とは小さい頃からの知り合いでな。まるで本当の孫のように思っていたらしい。森元は上木の引きこもりを治すことができたなら議員を引退してもいい。最後の頼みと言っているのだ」 「それはいい話…ではありませんね。本当の孫のように思っていた娘と子供をつくって捨てたんですか。最低じゃないですか」  山上はうっかりいい話だと思いかけて一人ノリつっこみをした。 「そうだ最低なのだ。だが当社比では気にかけていてな。私とて上木が私と会うことで森元が辞めてくれるのなら安いものなのだ」  近くで見るとアパートは本当にボロボロだった。大きなヒビに新しくセメントを流し込んだ後も複数見受けられた。壊れて怪我人でも出たら賠償金を払わなくてはならない。無理に使用するより建て替えた方がいいと思うのがと他人事ながら心配になった。 「全く…なんで私がこんな目に」  須河は曲がりなりにも現総理大臣だ。本来ならSPをつけてこなくてはならないのだが、こんな情けない理由でSPを動かせるかと秘書の山上だけを連れてきていた。  とはいえ万が一河須に怪我をさせたら山上の立場がない。山上は注意しようかと思ったが河須は1人でどんどん先に行ってしまう。 「本当にこんなところに人が住んでいるのか? 」  玄関は塗料がはげ落ちてそこに錆がこびりついていた。チャイムはついているがボタンの部分が取れてガムテープでくっつけられている。押したところでちゃんと鳴るのかも怪しかった。 「表札は間違いないようですね」  表札に上木とマジックで書かれているのを確認すると山上はチャイムを押した。一応音は出ているようだ。だが返事はない。何度か押したがやはり同じだった。 「出てこんな」 「考えてみれば引きこもりですから出てこないのは当然かもしれません」  河須の話では上木は大学入学後にこのマンションに引っ越して引きこもりになってしまったらしい。大学のレベルについていけなかったのだろうか? 母親が言うにはそれまでは明るい子だったのだという。親の言う明るい子が本当に明るい子なのかは疑問だが。 「もしもーし! 上木くん! 森元さんの言う通り首相がやってきたぞ! 」  河須はそう言うとドアをたたいた。 「ちょっと何やってるんですか! 首相がSPをつけずにこんなところにいる時点で危ないのに阿呆なことをせんでください! 」  山上は慌てて河須を止めた。政治家と言うのはどいつもこいつもどうしてこうにも常識がないのかと頭を抱える。 「誰が阿呆だ! 首相に向かって! 日本は平和な国なのだテロなど起きるものか! 」 「そんなこと言っている場合ですか! だいたいそんなことで出てくるはずが…」  ないでしょう。  しかし、山上がそう言う前にあっさりドアは開かれた 「ええ? 首相って安部誠二さん?」  下着の若者の姿がそこにはあった。  Tシャツにはtake back japanの文字と共に前首相の顔がアップでプリントされている。イマイチぱっとしない元首相の河須と違って前総理はカルト的な人気があった。どうやら彼も前首相のファンらしかった。 「い、いやワシは河須だが…」 「え~誠二さんじゃないのぉ。叔父さん首相に合わせてくれるって言ったのに」  青年は頬を膨らませる。 「君が上木晋三くんですか? 」  恐る恐る山上は聞いた。彼が本当に上木なら引きこもりと聞いていたのに随分と表情豊かだ。 「そうですよぉ~。ある時は政界のドン森元議員の孫の成蹊大学法学部4年生。そしてまたある時は第三次世界大戦のない未来からやってきた予言者ユーチューバー、ジョンタイター。かくしてその実態は上木晋三その人であります! 」  そう言うと上木はブイっとピースサインをして見せた。 「ユーチュー? 」 「個人でネットで配信しているということです」  ネットに疎い河須に山上が補足して説明した。 「ちなみに僕の来た未来では第三次世界大戦の代わりに新型の疫病が流行して戦争と同じくらいの死者が出ているという設定です」  やはり彼が上木のようだった。引きこもってインチキな設定のユーチューバーをやっていたらしい。彼は精神的な問題で引きこもっている8割ではなく残りの2割なのだろう。 「誠二さんのサイン入り色紙欲しかったのになぁ…」 「だからワシが現在の首相の河須なのだが」  河須はちょっとムッとして言った。河須は前首相と比べて影が薄いのを気にしている。 「え? もう誠二さん首相じゃないの? 」  河須が首相になったのは半年も前なのだが上木は今初めて知ったらしい。何やらしばらく考え込む。 「そっかぁ、もう誠二さんは首相じゃないのかぁ。確かに今の政治よくなかったからなぁ。誠二さんだけに。でも僕は好きだったのになぁ。だってお友達になれば格安で高級ディナーに誘ってくれたり交通事故をもみ消してくれたり阪神優勝させてくれるんでしょ。安部友達になりたかったなぁ」  上木は何やらブツブツと呟いていたが気を取り直したように河須を見た。 「ん! んん!? よく見たらおじ様ってとってもかっこいいね。その骸骨みたいな頭がチャーミング。やっぱりオーラが違うよね。一般の人たちとは。これが人の上に立つ者のオーラってやつかな」  歯の浮くような誉め言葉をベラベラと並べ始める。  なんだこいつは…  山上はドン引きした。やはり一般的な引きこもりとは全然違う。対人恐怖症で目を合わせられなかったりオドオドしたりなど何もない。それどころかはっきり目を見て恥ずかしげもなくおべんちゃらを言ってくる。こんなあからさまな嘘くさい誉め言葉まで。  彼が引きこもりをしている理由は残りの2割…もっとニート的な怠惰からきているのだと山上は確信した。 「先生…少し胡散臭い人間です。早く切り上げた方がいいのでは? 」  山上は小声で忠告した。しかし。 「ふむ。思ったよりしっかりした青年じゃないか」  河須は見え見えのお世辞にすっかりいい気分になってしまったようだった。 「先生? 」  お前ちょろすぎだろと山上は思った。 「君は森元さんのお孫さんだ。君さえよければ政治家になってみないか? 君なら森元さんの政治基盤を受け継ぐこともできる。私が力になるよ」 「先生ちょっと何言ってるんですか? もう後継者は決まってるんでしょう? 」 「一応決まっているが本人はあまり乗り気ではないのだ。このスキャンダルの後を受けてだからな。上木くんがその気なら私が後見人になろう」 「いや先生は人気ないから後見人についたら逆に負けますよ」 「な、なんだと貴様…」  うっかり本音を滑らせてしまう山上。 「まぁ、冗談はさておいてですね。森元さんの後継者を先生の一存でねじ込むのは不味いでしょう」 「貴様それは本当に冗談なのかね? 」  河須が憮然とするが山上は聞こえないふりをした。 「政治家かぁそれもいいですね。お金もいっぱい稼げそう。それに尊敬する河須首相…いや河須閣下のお傍に使えられるとなればぜひお願いしたいところです」 「閣下か…むふふ。悪くないな」  「先生…ちょっといいですか」  山上はにやける河須をひっぱりヒソヒソ話を開始する。 「先生。ですから何勝手に決めてるんですか? 」 「馬鹿もん。こいつはあの森元の隠し子だぞ。取り込めれば大きな戦力となる。それにワシをとても尊敬している。必ずや役に立つに違いない」 「いや、だから勝手にそんなこと決めちゃ駄目ですって。それに尊敬とか明らかに嘘でしょう」 「思えば皆のワシの評価は低すぎたのだ。戦争下でオリンピックを推し進めたワシの政策は確かに不味かったかもしれん。しかしオリンピックは無事成功を収めた。それなのに皆インパール作戦だのとなんだのと陰口を叩きおって…」 「そりゃそうでしょう。国民感情ガン無視でしたし。中抜きとかも見つかっちゃいましたし」 「しかしあの見どころのある若者はワシのことを分かってくれている。ああいう若者こそが次の時代に必要なのだ! 」  河須は相当ストレスがたまっていたらしい。拳を握って滝のような涙を流して力説している。 「なんだったらワシの後継者にしてもいいかもしれん! 」 「一体何を言っているんですか? 」  山上はあきれ果てた。確かにオリンピック前に米中の摩擦が顕著になりそれが発端となって第三次世界大戦に発展。そのせいで前総理が仮病を使って辞めてしまい貧乏くじを引かされたのは河須だった。しかし戦争中にオリンピックを敢行したのは正気の沙汰とは思えなかった。指示が伸びないのは自業自得だろう。 「閣下の下に仕える。それはもう夢のようなこと。でも僕にはそれにたる人間ではありません」  しばらく2人の様子を眺めていた上木が言った。 「まず閣下の横に建てるような人間にならなくては。そのために僕は夢をかなえたい。それを叶えたなら胸を張って閣下の傍に使えることができるでしょう」  あからさまな利益誘導。こんなのに引っかかる馬鹿は…ああ、でも河須は興味津々だ。慌てて制止しようとした山上だったが遅かった。 「なんといじらしい。夢とは一体何なのだ? 」 「僕の夢は軍師になることです」  上木は満面の笑みで答えた。  ・・・ 「ニートの一番の夢は軍師になることらしいよ。山上くん」 「はぁそうなんですか」  山上は気のない返事を返した。 「そう。自分は実戦に立たずに戦況を自由に操りたい。危険のないところで万能にふるまいたいというのはニートのロマンだよね」 「自衛隊に軍師はありませんよ幕僚です」  河須とそして森元の裏工作で上木は幕僚となることが決定した。本来幕僚は指揮幕僚課程をへたエリートしかなることはできないのだが特例措置がとられることになった。さすがに重要な任に付かせることはできないので僻地での勤務になるが。 「なんで私がこんなことに」  さすがに素人一人に任せるわけにはいかないのでお目付け役が付くことになったのだが河須はそこで上木に他の派閥からの取り込み工作を恐れた。お目付け役は河須の息のかかったものでなくてはならない。しかし河須は総理とはいっても前総理の尻ぬぐい、敗戦処理であり大きな影響力はなかった。勿論自衛隊にパイプなどない。そこで白羽の矢が立ったのは山上だった。 「山上くんは自衛隊出身だったんだね。しかも指揮幕僚課程を出たエリートだったんだって? 」 「まぁそうですね。途中で辞めましたけど」 「それってもしかして宗…いや」  上木は何事か言おうとして辞める。 「よそう。この世界では僕達は同じ釜の飯を食う仲間だ。仲良くやろうじゃないか」  はっはっはっ!  上木は笑いながらバシバシッと山上の背中を叩いた。 「痛いですって…僻地というだけあって部下たちは癖の強い者達らしいですよ。コネでやってきた貴方は歓迎されないでしょう」 「大丈夫だよ山上くん。僕は要領だけはいいんだ。昔からね」  ジト目の山上に対し上木は能天気に言った。 「さぁ、いっちょうブワーッといくか!」
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