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【第一章:再会と契約】
ベッドに押し倒されて、激しく動揺した。
さっき私を引き寄せて抱きしめた手は、その力を緩めないままに、私の肩をマットレスに押さえつけている。
見下ろす目は熱を帯びていて──見間違えようもなく、情欲が浮かんでいる。一度も目にしたことのない「男」の顔をしていた。
鼓動の響きと音がうるさい。まるで耳元に心臓が移動したかのようだ。
「……ちょ、っと。何もしないって約束」
「ごめん、無理」
短く言い捨てた後、顔が近づいてくる。
重なった唇は柔らかくて、熱かった。濡れた舌先でなめられて、思わず唇を開くと、隙間からすかさず入り込んでくる。厚みのある舌が、前歯を、歯茎をねっとりとなぞっていく。
「ん、……ふ、ぅ」
慣れない感触に苦しくなって、声が漏れる。その声に煽られたように、舌の動きが大胆になって、口内を蹂躙する。
のしかかる体は思った以上に大きくて重くて、体をよじってもまったく抜け出せない。それどころか、動くたびにますます、押さえつけられる力が強まるようだった。
これから起こることを想像して、体の奥から震えが起こり、止められなかった。
事の起こりは半年ほど前にさかのぼる。
その頃、私は、7年勤めていた会社を辞めて、実家のある町に帰ってきたばかりだった。大学進学のために家を出て以来だから、11年ぶりだ。
もちろんその間に短い帰省はしていたけど、今回は違う。地元で再就職するために戻ってきたのだ。
「……はあ」
とはいえ、望んで戻ってきたわけではないから、気分は憂鬱だった。
東京の大学で建築を学んだ私は、中規模の事務所に就職した後、働きながら建築士の資格を取った。それから5年、事務所の先生や先輩のアシスタントを経てようやく、小さいながらもメインで案件を任されるかと思った矢先。
唐突に、事務所を辞めざるを得ない事態になってしまったのだ。
あまりにも理不尽で不本意で、抵抗しようと試みたけど、変な真似をしたらこの業界で仕事をできなくしてやると脅され、泣き寝入りをするしかなかった。
思い出すたびにふつふつと沸き上がる、憤りと悲しさに、新幹線のホームに降りたった時にも支配されていた。そのため、しばらくその場から動く気になれなかった。
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