1人が本棚に入れています
本棚に追加
高校2年生の終業式の日に勇気を振り絞って誘った、あの日の花見。その終わりに僕は里桜さんに告白するつもりだった。ところが僕の勇気は誘うところまでで尽き果てていたらしく…。
絶好のタイミングが来ても、別れの時間が来ても、どうしても好きだと言うことができずに…結局「さよならまた学校で」と言ってしまった。
そして…彼女はそのまま帰らぬ人に…。
あの日から、僕の心の一部は死んでいたのかもしれない。いや、死んでしまったんだろう。僕はずっと立ち止まったままだった。
だから、僕は里桜さんに向き直る。
なにかを察して彼女が僕を見る。
「あの日、里桜さんが死んでから、僕はずっと後悔してるんだ。もっと違う未来があったんじゃないかって。そしてずっと、君に謝りたかったんだ。」
彼女に10年来の想いを口にした。
「僕はずっと、里桜さんのことが好きだ。この気持ちはあの時から変わってないよ。あの日、この気持ちを伝えていたら、何かが変わっていたはずだって。諦めてしまった僕が間違っていたんだって、そう思ってる。」
彼女が少しうつむく。
「勝手な想いさ。でも、またここで、一緒に里桜さんが好きだったこの桜を見たい。また来るから。絶対、何年でも必ず来るから!」
彼女はうつむいたまま、動かない。沈黙が流れた。
「あたしね、今は桜、嫌いなの。」
たっぷり1分ほどして、彼女が呟く。桜を見上げて、言う。
「生きてた頃はさ、桜が咲くの嬉しかったよ。名前にも入っててお気に入りの花だった。でも、この花が咲くたびに、あたしが死んだ日のこと思い出して。痛くて苦しかったことも、どんどん忘れられてく寂しさも全部ツラくて。だから、今はこの花が、嫌い。」
いつも明るく元気でお茶目な彼女らしからぬ、低く、暗い声で紡がれる恨み言。
「ね、深見クン。あたし、気付いてたよ。あの日、きっと今みたいに告白されるのかもって期待してた。」
顔をあげた里桜さんは、寂しそうな笑顔で言った。
「帰りにさ、この桜のとこで、あたしってば自意識過剰すぎ?って恥ずかしくなっててさ。そっか…勘違いじゃなくて良かったよ。」
そんな風に思ってたのかと僕は驚く。
「まぁ、そうやってぼんやりしてたから…狙われたのかもね…。」
里桜さんの顔が曇る。
そう。あの時、僕が行動に出ていれば。
彼女を家まで送っていれば。
いや、もっと早く帰っていたら。
後悔を数えればキリがない。
彼女の死の一因は、間違いなく僕だ。
「ごめん…。僕の勇気が足りなかったせいで、里桜さんを苦しめてしまった。本当にごめん。」
深々と頭を下げる。
…返事は、無い。
最初のコメントを投稿しよう!