君と花見を

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「や。久しぶりだね、深見クン。」 満開の桜が立ち並ぶ近所の城址公園。夕闇が深さを増していく頃、酒を片手に騒ぐ花見客の賑やかさから少し外れたところにポツンとある桜の木の前。僕へ親しげに声をかけてきたのは、そこにいるはずのない女性だった。 「驚いた?」 肩までかかるセミロングの髪の少女とも呼べそうな容姿。化粧っ気のない顔は整っていながらもどこか愛嬌を感じさせる。もちろん僕はこの女性を知っていた。彼女の名前は吉沢里桜。高校の同級生で、当時僕が好きだった人。 「里桜さん…なんでいるの…?」 でも彼女がここにいるはずが無いんだ。 だって。 あの日、この場所で彼女は死んだ。 10年前、高校3年生の春に、この満開の桜の下で彼女はその命を散らしたんだ。 ここにいるはずが、いや居ていいはずが無かった。 「ずっといたよ。やっと声、かけられた。」 彼女が笑う。 長袖の白いワンピースが夜風に舞う。忘れもしないあの日と同じ格好。 「毎年必ず来てくれてたよね。ちゃんと見てたよ?気付いてはもらえなかったけど。」 あはは、と力無く笑い、頬をかく。その仕草も当時のままだ。切なさが込み上げ、胸がつまる。 「ね、少し座って話さない?」 何も言えなくなった僕に、そばのベンチを指差す。 僕は黙ったまま頷き、ベンチに腰かける。里桜さんは当たり前のように隣に座る。その距離の近さにドキリとする。 そのまま2人、桜を見上げながら次の言葉を探る。 桜の花びらがひらひらと地に落ちていく。
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