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プロローグ
0時を回った頃、不意に緊張が腸を刺激した。
迫り来る便意。それは一過性のものに過ぎなかったが、不穏な足音を立てたのち、はっきりとした印象を残していった。
鈴の音が聴こえたような気がした。夜である。線路沿いのアパートの一階、その一室。終電はとうに過ぎ去り、一日ぶりの、長い静寂が訪れようとしていた矢先である。
始まった大学生活もまだ序盤。大きく変わった環境、そこに浸かりきっていない時分に、ふと心を掠める正体の分からない不安は、時として、長きにわたって悩ますものへと化けるのであろう。
鈴の音である。これによって引き起こされたのは私の不安、便意。音は虫の羽音ほど小さかった。しかし明確な輪郭がある。たかが一度きりの鈴の音であるが、虫の羽音は遠くで嵐を呼ぶ。
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