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色んな遊びをして、ちょっと飽きてきたとき、典子がベンチの背もたれにかけられたちょっと汚れたビニール傘を見つけた。
誰かの忘れ物だと思う傘を取って、典子が当たり前のように開く。
「知ってる? 傘で空を飛べるってこと」
傘で空を飛べることを知らなかったわたしは、首を横に振った。
「磨智にも知らないことがあるんだね」
勝ち誇ったように言って、典子が笑う。
「無理だよ、傘で飛ぶなんて」
「無理じゃないよ。女の人が飛んでるの、映画で観たことあるもん」
小学一年生のわたしも典子も、まだ現実とファンタジーは同じところにあった。
「ほんとにほんと?」
「ほんとにほんと」
言って、典子は滑り台をのぼった。
ドキドキしながら見守っていると、典子が「ヤー!」って言いながら飛び降りた。
スローモーションで覚えている記憶の中で、傘がゆっくりと逆開きになって、お尻から地面に着地した典子はLの字みたいな姿勢のまま「ガギグゲゴ」の音がぜんぶ詰まったような「ギャー!」という叫び声を上げて、つられたわたしも「ギャー!」って泣いた。
そのあと大人たちにめちゃくちゃ怒られたけど、ベソをかくわたしの隣で典子は「お尻がちょっと腫れただけですんでラッキーだった」って、あんまり反省していなかった。
とにかくその日、わたしたちは傘で空は飛べないことを知った。
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