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典子は昔からずっと自由で、やりたいことをやる子だった。わたしはそんな典子に振り回されっぱなしで、今日だって強引に連れられてワケも分からずふたりで図書室に来ていた。
まだ頭を抱えて唸っている典子の髪の毛の間からチラッと見える長い指。爪はピカピカでとてもキレイだった。
わたしは典子の手が好きだ。こんなことを言ったら、典子に気持ち悪がられるかもしれないから黙っているけど、わたしもあんな風にスラっとキレイな手だったらって、見るたびに思う。
今年の六月。なんでそうなったのかは分からないけど、典子は学校一のイケメン野球部の菊田くんへの「誕生日告白大作戦」を立てた。そんなの無理だよと思いながら、わたしは菊田くんへの誕生日プレゼントを買うのに付き合わされることになった。
いろいろと悩んだ典子はスポーツタオルをプレゼントに決めた。帰りに百均へ寄って、わたしが密かに立てていた「典子の手をもっとキレイにする大作戦」のために「成功確率が上がる」とかなんとか適当なことを言ってうまいこと爪磨きも買わせた。
でも結局、典子は菊田くんにあっさりフラれて、一学期の終わりに先輩と付き合ったかと思うと一週間もしないうちにまたフラれて、いまわたしの隣で、
「なんで『恋愛』の授業がないんだ! もうぜんぜんわからん!」
って、よくわからない愚痴をグチグチ言っている。
わたしにも典子が先輩にフラれた理由はぜんぜんわからなかった。手がキレイなのはもちろん顔だって普通にカワイイし、本人は気がついてないかもしれないけど、わたしとはちがって魅力の塊みたいなコなのに……
こっちまで聞こえるくらいの森田くんの大きな咳払いにハッとしたわたしは、
「だから、静かにしてってば」
って、小声で典子に注意した。
典子が口を尖らせたまま、吸い込まれてしまいそうなくらい大きな目でじっとわたしを見つめてくる。
「な、なに?」
「磨智はさ、これからもずっとメガネなわけ?」
「は?」
「コンタクトにしないの?」
「す、する予定はないかな……」
「えー、もったいない――」
――サッと典子にメガネを取られて、わたしの世界がぼやける。
「ちょ、なにやってるの?」
慌てながら、でも森田くんが怖いから小声で怒ったら、
「みんな気づいてないけど、磨智はこっちのほうがぜったいカワイイよ」
って、ぼやけた典子がわたしの言葉を聞き流して悪戯っぽく笑った。恥ずかしくて、心臓が早くなる。
わたしは典子から奪い返したメガネを、赤くなる顔を隠すように掛けなおした。
「わ、わたしがかわいいわけ、ないじゃん」
「自分で気づいてないだけだよ。それに磨智は優しいし、頭も良いし、人のいいところばかり気がつくし、いつもわたしを応援してくれるし、おかげでわたしはいつも自信満々でいられるわけ。わたしが男子だったら今すぐ付き合いたいくらい好き」
急にわたしのことを褒めだした典子に、長い付き合いのわたしはピンと来た。
またなんかやろうとしてる。
急に冷静になったわたしは、さっきまで照れていた自分がバカみたいで悔しくなった。
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