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「またなんか頼みごと?」
ため息をついて聞くと、
「へへへ、バレたか」
って、悪びれもせずに笑った典子が森田くんを指差した。
「森田くんがなんなの?」
「やっぱりよく考えたら、わたし体育会系じゃなくて文化系が好きかもしれない」
やっぱりの意味はよく分からなかったけど、典子が今度は森田くんに興味を持ったのは分かった。先輩にフラれてさっきまでいろいろ愚痴っていた時間は、一体なんだったんだろうか?
「磨智って森田くんとおなじクラスだし、仲良かったりしないかなあ、なんて」
「さっきまであんなにグチグチ言ってたのは、なんだったの?」
「あれはあれでもう終わり。わたしは未来を見て生きていたい前向きニンゲンなんだよね。ほら、なんかそういう名言だっていっぱいあるでしょ。ひとつも思い浮かばないけど」
名言を言い終わったみたいな顔をしてる典子に「なにも言ってないんですけど」ってツッコもうとしたけど、まあ、でも立ち直ったなら良かったって思って、やめておいた。
「で、森田くんとは仲良いの?」
「うーん。森田くんとはしゃべったこと、ほとんどないんだよね」
「マジかあ」
困り顔になる典子に、
「でもまあ、普通にしゃべりかければいいんじゃないかな?」
って、さっきおだてられたことへのお返しですこしだけ意地悪をする。
「えー、なんて言えばいい?」
困るどころか前のめりで目を輝かせる典子。
そうだった、典子は前向きニンゲンだった。
「お、おすすめの本を聞くとか?」
正直、前向きニンゲンじゃないわたしには男子とする話題なんて思いつかないから、苦し紛れで適当に答える。
「分かった。聞いてくる」
言って立ち上がる典子に、
「の、典子なら大丈夫だよ!」
って、思わず大きな声援を送ってしまって、ヤバイと思って森田くんを見ると、気がついていないのか本に目を落としたままだったからセーフ。
「じゃあ、行ってくる」
「はい。がんばってください」
典子の緊張が伝わって、思わず敬語で返すわたし。
森田くんのほうへ向かって歩きだした典子の背中を見ながら、やっぱり行動力が凄いなあと思っていたら、典子が急に足を止めてこっちを振り返った。
「さっき言ったことは、ほんとの本音だからね」
って、笑顔で言って、典子は前を向いてまた歩き出した。
さっき言ったことって、褒めてくれたこと?
なんだか嬉しいような照れ臭いような気持ちになりながら、森田くんに話しかける典子を見守る。
わたしは、典子のいろんな魅力を知っている。
典子は、わたしのいろんな魅力を知っている。
これが友だちってことなのかって思った。
なにを言われたのか、森田くんが急に顔を上げて驚いたような表情を浮かべながらなにかを言って、なぜかつま先立ちになって大きく三回うなずいた典子と会話を続けている。
うしろに組んだ手が、今まででいちばんキレイに見えた。
意外と盛り上がっているふたりを見守りながら、森田くんかどうかは分からないけど、典子の魅力に気がつく男子がいつか現れてくれればいいなって思った。
でもきっと、大丈夫だろう。
わたしにはわかる。
典子はきっと、大丈夫。
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