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佐々木が帰った後、私は書斎に入った。
重厚な木の机にゆったりとした椅子。著者近影にいつも使っていた場所だ。机の上のデスクトップパソコンは洋司が資料を整理したり、ゲームに使っていた。
三ヶ月後にこのパソコンの中から赤根陣の遺作を発見しましたと、佐々木に連絡しよう。入院前に書いていたんだと思いますと言って。
部屋の隅にあるシンプルな机は私の机だ。椅子は長い時間執筆しても、大丈夫なように良い物にした。腰掛けて、パソコンを立ち上げる。
佐々木は真相に気づくかもしれない。
でも、喜んで受け取るだろう。
いや、読んでも、気づかないかもしれない。
もう、十年も私が赤根陣だったのだから。
いいえ、赤根陣は私たち二人の子供。洋司がサポートしてくれたから、書き続けることができた。
洋司。
自由に書きたいと恨んだこともあったのに、あなたがいない今、自分の作品なんか、いらない。
思い出すのはあなたの優しい声。
「玲子なら、きっとできる」
いつもと同じように小説を書けばいい。
ううん。
最高傑作にしてみせる。
それがあなたに捧げる私の気持ち。
私は赤根陣の最後の小説を書き始めた。
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