海老のお寿司

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 海老のお寿司が、桶の中に残っている。 「遠慮の塊やなあ」  というと、順子おばさんが、 「食べてしまいなさい」  とおっしゃるので、いただく。最後の海老のお寿司。なぜか海老のお寿司がひとつだけいつも残る。母たち三姉妹は楽しそうに祖母を囲んで話続けている。いちばん末の利恵おばさんは、よく鼻に皺をよせて、いやねぇ、という。利恵おばさんは、東京でだんだん皮肉屋になっていっている。母に以前そういうと、18歳から家を離れてずいぶんたつからねぇ。あの世代は、女子で大学いく人少なかったから、男子にかぐや姫扱いされたんでしょうよ、という。  なるほど。無理難題を出していくうちにだんだん皮肉屋になっていったのか。わたしは女子大で圧倒的に出会える男子の数が少ない。共学で男子にかしづかれてるのもいいような気持ちもするけど、選びたい放題をしていたらだんだん皮肉屋になるんやなあと思う。人生ってむずかしい。海老のお寿司はなかったら華やかさにかけるけど、いちばん最後まで残ってしまうし、食べても水っぽくてさほどおいしくもない。わたしも海老のお寿司やろか。  否、否、否。  あなご寿司のような気持ちがする。外見は地味で、食べるとふわふわしておいしい。そうや。わたしはあなご寿司や。いつでもそばにいて、やわらかくて甘いあなご寿司。外見は白くて、茶色の甘いたれが上にのってるけど、やっぱりふわふわで甘くていちばん先に食べたくなる。甘くてふわふわ。それがわたしや。そんなあほなこと考えていたら、眠くなってきた。
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