最後の彼氏

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彼は自分のことを話すようになった。 学生時代の友人のこと。 バスケやスキー、登山などの趣味があること。 仕事で何かあった時は 弱い部分も見せてくれるようになった。 過去の傷を縫合するためにかけた鍵は あくまで一時凌ぎでしかなくて 私が彼の中に見えた南京錠は きっと いつか誰かが開けなきゃいけないことで それを私が開けられたことに 小さな優越感を覚えながら また 大きな繋がりを感じながら 私は彼と共に生きる道を歩んでいた。 「旅行に行こう。」 9ヶ月ほどが経ったある日 彼はいつものように言った。 別に初めてとかではない。 たまにだからこそご褒美。 年甲斐もなくお茶目に言えば 5畳半の部屋から飛び出した 二人きりの小さな大冒険。 でも 彼の顔は 普段よりもほんの少しだけ 真剣な表情をしていた。 南京錠とかではない。 ただちょっぴり いつもより肩の位置が高い。 「…どう、かな?」 ………。 ふふ そんなの 決まってるじゃない。 「旅行、行きたいな。」
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