言いたいことは。

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「……最後に、何か言いたいことはあるか?」 突き付けた鎌。 靡く黒髪、蔑んだ目。 冷酷な声で死神は言った。 これから、野垂れ死ぬ自分の言いたいこと。 たったひとつの罪を犯して。 大切な人を順番に喪って。 挙句の果て 全てを失った自分が、言いたいこと。 少し、考えて。 息を吐くように、言葉を吐いた。 「どうしてこうなったんだろう……」 「たくさん、足掻いてきたのにな……」 罪を犯した後。 まず、すぐ大切な貴方と距離を取ろうとした。 自分を犠牲にしてでも、 貴方を救いたかった。 けれど、優しい貴方は自分を守らなかった。 独りになるための言い訳も浮かばないまま。 手を引かれて、一緒に逃げた。 青すぎる空も。 身を隠すに最適な夜空も。 走って、走って、走り続けた。 擦り切れた傷 疲弊していく精神。 「……大丈夫。一緒に足掻こう。」 呟く君と、逃避行は遠く。 叶わないと知っていても。 後がないことを知っていても。 二人は常に一緒だった。 ……自分を庇った、さっきまでは。 あの、傷では。 今の自分の傷では。 到底逃げられやしないのに。 罪を犯した地点で、 もう生きてても辛いだけなのに。 迫害され続けるのに。 それでも。 お互いに祈るのだ。 「……どうか、生きててくれますように。」 その、言葉を聞いて、 吐き捨てるように、目の前の人に伝えた。 「……今死ななかったこと、きっと後悔するぞ。」 遠い、闇へと消えて。 「……さて。 一服でも、しますかね。」 そう呟いた真面目な死神は 珍しく、仕事をサボった。
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