あの日の卵焼き

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 雅紀が「腹いっぱい」と言った時点で、もう卵焼きを食べてもらう事は無理だと思い、私が食べればいいのだと気がついた。  だけど今このタイミングで出すと、雅紀に何か言われそうで嫌だった。 「雅紀、先に戻っていてよ。後から行くから」 「なんで、待つよ。早く食べろよ」 「いいよ、時間勿体ない」 「だったら早く食べろよ。……なんだよ、怒ってんのか?」 「は?」  なぜ私が怒っているという事になるのだろう。  あまりにも意外な言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。 「別にアイツら悪い奴らじゃないし、すぐ部活に戻ったんだし、いいだろう」  あぁ、雅紀は私が「デート中なのに友達を連れてきた」という事に対して怒っていると思っているのか。 「違うよ、そんな事どうでもいい……」と、つい口を滑らした。 「は?どうでもいいってなんだよ」ムッとする雅紀。 「ご、ごめん。違う、友達の事をどうでもいいって思ってはいなくて、その…」  初めて見る怒った雅紀の顔に、私の心臓が凍る。  指先が冷たくなる。  ドキドキして、言葉が上手く口から出ない。  もう、泣きたい。  私はうつむいたまま、小さなタッパーを鞄から出してきた。  ……今気がついた。  タッパーには、酒造メーカーのロゴが入っていた。  うわ、ダサい。皆んなの前で出さなくて良かった…。
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