18人が本棚に入れています
本棚に追加
雅紀が「腹いっぱい」と言った時点で、もう卵焼きを食べてもらう事は無理だと思い、私が食べればいいのだと気がついた。
だけど今このタイミングで出すと、雅紀に何か言われそうで嫌だった。
「雅紀、先に戻っていてよ。後から行くから」
「なんで、待つよ。早く食べろよ」
「いいよ、時間勿体ない」
「だったら早く食べろよ。……なんだよ、怒ってんのか?」
「は?」
なぜ私が怒っているという事になるのだろう。
あまりにも意外な言葉に、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
「別にアイツら悪い奴らじゃないし、すぐ部活に戻ったんだし、いいだろう」
あぁ、雅紀は私が「デート中なのに友達を連れてきた」という事に対して怒っていると思っているのか。
「違うよ、そんな事どうでもいい……」と、つい口を滑らした。
「は?どうでもいいってなんだよ」ムッとする雅紀。
「ご、ごめん。違う、友達の事をどうでもいいって思ってはいなくて、その…」
初めて見る怒った雅紀の顔に、私の心臓が凍る。
指先が冷たくなる。
ドキドキして、言葉が上手く口から出ない。
もう、泣きたい。
私はうつむいたまま、小さなタッパーを鞄から出してきた。
……今気がついた。
タッパーには、酒造メーカーのロゴが入っていた。
うわ、ダサい。皆んなの前で出さなくて良かった…。
最初のコメントを投稿しよう!