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*月下美人
・不知火
・頬
・儚い恋
ピンクの頬に白くて細い指。
赤い唇が弧を描けば、俺の口も自然と笑顔になってしまう。
君の全部を、俺が独占できたらいいのに。
「うわぁ…!夕方の海って綺麗だよね」
「だね。あと少しで帰らないといけないけど…」
「放課後に来たもんね。でもいいよ。こんなに綺麗な景色が見れたんだもん」
誘ってくれてありがとう。
そういう君の笑顔の方が、目の前の夕日よりも輝いている気がして。
あまりの眩しさに君の顔を直視出来なくなった俺は、思わず目を逸らしてしまう。
俺の頬が真っ赤に染ってしまっているのも、きっと目の前の真っ赤な夕日のせいだ。
「そういえば不知火って知ってる?」
「……みかんの?」
「違うけど、美味しいよね」
「違うんじゃん。なぁに、それ?」
「七月末の夜、八代の沖に見える沢山の火影のことを言うんだって。ほら、こんなやつ」
「なるほど。見れたらラッキーなやつだ!」
俺のスマートフォンを覗き込んでいる君の瞳が、それこそ不知火みたいに輝いていて、「あ、俺はもう見れたな」なんて思った俺は馬鹿だろうか。
「今度探しに来てみる?」
「え、でも君のご両親に怒られないかな…」
「大丈夫よ!だって私が帰るまで貴方がずっと一緒にいてくれるでしょ?」
ずっと一緒になんて、簡単に言ってくれる。
当然、家まで送り届けるつもりだけど。
嫌だって言われたって傍にいたいと思うくらい、君のことが好きなんだから。
君の言葉に相槌で答えると、じゃあ決まりね!と嬉しそうに小指を差し出してくる君。
再び頷いてその小指に自分の小指を絡めると、君はまた嬉しそうに笑った。
あぁ、やっぱり、君の全てを俺のものにしたい。
君の瞳に、俺しか映らなければいいのに。
叶え。叶え。
いつか、遠い先の未来でもいいから、叶ってくれよ、俺の儚い恋。
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