月下美人/桜/山茶花

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*桜  ・淑やか  ・ワルツ  ・泡沫 桜の花びらが舞っているのを見ると、春の終わりを感じる。 まるでワルツのようにも見えて綺麗だけど、その淑やかさからは寂しさも感じられて、少し苦手だ。 泡沫のごとく散りゆく花弁が、俺の中の何かを攫って行ってしまうような気がして……。 ……なんてカッコつけたこと言ってみても、やっぱり俺には似合わないな。 心の中で独り言ちただけだけど、ピエロにしか見えないわ。 やめだやめ。 一人勝手に恥ずかしくなりながらもう一度大きな桜の木を見上げてみると、満開の桜とその周りを散っている花弁が、卒業生の門出を祝福しているようにも感じられた。 もうアイツも高校を卒業する歳なんだな……。 「ねぇお兄ちゃん、一緒に写真撮ろう?」 「は?嫌だよ。妹とツーショットとか恥ずかしいだろ」 「えぇ!?いいじゃんせっかくの卒業式なんだから!」 妹の美桜は、高校生になっても俺のことをずっと好きでいてくれているみたいで、思春期特有の態度とか言い回しを目にしたことがない。 勝手に私のもの触らないでよ!とか、お兄ちゃん嫌い!とかそんな感じのやつ。 自分の妹とは思えないくらいに素直に成長したと思う。 それに比べて俺は、高校生ぐらいの頃から親や妹に素直になることがどこか恥ずかしく感じられて、すっかり面倒くさい男になってしまった。 「ほら、並んで!」 「仕方ないな」 美桜の隣に無理やり並ばされて、親が構えているカメラに視線を向ける。 俺のすぐ横で嬉しそうに笑ってピースしている美桜のようには、どうしても出来そうにない。 でも、 「……美桜」 「ん、なにお兄ちゃん?」 「卒業……おめでとう」 「……へへっ、ありがとっ」 今日くらい、たまには素直になってみるのも悪くない。
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