3人が本棚に入れています
本棚に追加
風が吹いた。
頬についた桜の花びらを指で弾いた。
やっぱり……桜は嫌いだ。
わたしは桜を見ると、なんだかおかしくなりそうになる。
あんなに美しいのに、と周りの人たちは言うけれど、わたしにはなぜかそうは思えなかった。正直、目に毒だ。
そんなわたしがこの桜之上町に生まれ落ちたのは、神さまのイタズラか気まぐれか、それとも試練だろうか。
四季を問わず満開に咲きつづける万年桜がある町で、わたしが産声をあげた理由は、まさに生まれちまった悲しみのせいに違いない。たぶん。
「なーに、たそがれちゃってんの」
落とした肩を勢いよく叩かれて振り返ると、満開の桜のような笑顔が間近にあった。
好香だ。
この町で生を受けたのは不幸だけれど、この好香と出会えたことだけは幸運であった。
「どうせまた桜が嫌いだー、とか思ってたんでしょ」
心の内を透かすように好香がニカリと口もとを緩める。
「悪い?」
最初のコメントを投稿しよう!