万年桜は今日も咲いている

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 風が吹いた。  頬についた桜の花びらを指で弾いた。  やっぱり……桜は嫌いだ。  わたしは桜を見ると、なんだかおかしくなりそうになる。  あんなに美しいのに、と周りの人たちは言うけれど、わたしにはなぜかそうは思えなかった。正直、目に毒だ。  そんなわたしがこの桜之上(さくらのかみ)町に生まれ落ちたのは、神さまのイタズラか気まぐれか、それとも試練だろうか。  四季を問わず満開に咲きつづける万年桜(まんねんざくら)がある町で、わたしが産声をあげた理由は、まさに生まれちまった悲しみのせいに違いない。たぶん。 「なーに、たそがれちゃってんの」  落とした肩を勢いよく叩かれて振り返ると、満開の桜のような笑顔が間近にあった。  好香(よしか)だ。  この町で生を受けたのは不幸だけれど、この好香と出会えたことだけは幸運であった。 「どうせまた桜が嫌いだー、とか思ってたんでしょ」  心の内を透かすように好香がニカリと口もとを緩める。 「悪い?」
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