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これが、わたしが好香を見た最後の記憶だ。
以来、好香とは会っていない。
みんなは、まるで好香なんて子が最初からいなかったように振る舞っている。平穏な日々と退屈な授業が、今日も終わってすぎていく。明日もきっと桜は咲いているだろう。
好香の所在を確かめるわたしに、先生はたった一言「転校したんだよ」と説明した。それを鵜呑みにするほど、わたしはバカになれなかった。
すべては推測にすぎない。しかし、わたしの頭に浮かぶのは、万年桜の根の下で、巫女のまま眠る好香の姿だった。
巫女の命と引き換えに、万年桜は美しく咲き誇る。
生け贄。そんな単語が脳裏をよぎった。
万年桜の根元を掘り返せば、きっと恐ろしいことになる。実行する気にはなれないが。
帰り道。見あげた空は、夕闇に支配されようとしている。風が吹き、桜の花びらが宙で踊った。町の淡い明かりがそれを照らす。
なんだか儚く命が散っていく様相に思えた。
「やっぱり……桜は好きになれそうにないよ、好香」
わたしを慰めるように、桜の花びらが頬を撫でていった。
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