最後の独裁者

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 無論、通常戦で勝てぬことを理解した中国は、悪あがきにも戦略核弾頭ミサイルを撃ち込もうとしてきたが、それも当然、想定の内だ。  量子コンピュータと繋がった我ら人間とA.Iのハイブリッド人類による科学研究は、日進月歩で著しい進歩を遂げている……すでに我々は、核分裂を抑制して核兵器を無効化する、アンチ原子爆弾を実用化していたのである。  これをミサイル基地を中心に全領土へと落とすことで、原爆や水爆はおろか、原潜や原子力空母、原子力発電所までもがすべて使いものにならなくなった。  後は安心して独裁政権を排除するまでである。  だが、あちらには脳内チップを使って自らの意思を奪われた、死をも恐れぬ捨て駒の軍隊が存在する……こちらもネットワークでリアルタイムに情報共有できる優れた兵士達であるが、まだまだ油断はできないであろう……。 「──陛下、敵首都が陥落。前政権を追い出した臨時政府の代表より、無条件降伏の申し出がありました」  しかし、いざ開戦してみると呆気ないものであった……。  いくら超管理国家といえども、その強権的支配に不満を持つ民衆が数多く潜伏しており、開戦の混乱に乗じて独自ネットワークから離脱すると、戦闘を放棄して大規模デモを各地で起こしたのである。  一週間あまりで首都も陥落し、前政権幹部は逃亡。臨時の革命政府を打ち立てた民主活動家との間で我が帝国への併合が調印された。  これで、この地球(ほし)のすべての国々が一つとなった……残る仕事は、インプラント手術の義務化を徹底し、すべての人類を一つのネットワーク意識体へと融合させることである。  このように排他的な政策を取り続けてきた我は、(はた)から見ればただの独裁者以外の何者でもないのかもしれない……だが、これはこの地球(ほし)と人類、そして、そこに棲むすべての生物達を永続させるためのやむを得ぬ選択肢であったのだ。  だが、そんな独裁者も我を最後の一人として、人類史の上から永遠に必要がなくなるであろう……。  いや、独裁者ばかりでなく、民主主義も議会制政治というものすらもこの世界からは要らなくなる……なぜならば、我らは()にして(いつ)。一個のネットワーク意識体なのだから議論も無用であり、ただ一人で考え、ただ一人で決めれば良いだけの話なのだ。  それも、膨大な情報量をもとに量子コンピュータで演算して出すその答え以上に、最善の解答というものもないであろう。  ようやく我も最後の独裁者としての役目を終え、名もなきネットワークの一端末に戻ることができそうである。                    (最後の独裁者 了)
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