最後の独裁者

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最後の独裁者

「──陛下、総攻撃の準備、すべて整いました」  我らが野望を成し遂げ、この世界の趨勢を決める最後の戦い……今回は特別に自ら海を渡り、前線基地を置いたオキナワで作戦本部に詰める我に、総司令官が厳かな声でそう報告をする。 「うむ。今日こそ旧時代の遺物どもを壊滅させ、人類史に新たな1ページを刻むこととしよう……全軍、攻撃開始!」  帝国軍の元帥でもある我は、白手袋を着けた右手を前にかざすと、朗々と号令を発して最終決戦の火蓋を切って落とした。  我は汎地球合衆帝国初代皇帝ジョーゼフ。この地球上の大半を占める大帝国の国家元首だ。  少し前までは連邦国の大統領であったが、現在は共和制から帝政に移行し、即位宣言もして皇帝を名乗るようになった。  古代ローマ、モンゴル、オスマン・トルコ、スペイン、大英帝国、アメリカ合衆国…と、歴史上、さまざまな大帝国が出現しては消滅していったが、おそらく我が帝国が歴史上最後の、そして、未来永劫続く最後の大帝国となるであろう。  そして我は、人類史上最後の独裁者でもある……。  懐かしくも昔語(むかしがたり)をしてみれば、そもそも我はU.S.Aの片田舎に生まれた、貧しい家庭出身のしがない理系学生だった。  それでも勉強はそこそこにできた方で、奨学金を得てM.I.T(マサチューセッツ工科大学)へ進んだのだが、そこで人生…否、世界観すらも一変させる転機が訪れた。  当時、A.Iや量子コンピュータをはじめとする情報科学分野の進化は著しく、我の入った研究室では脳内に極小のコンピュータチップを埋め込むことで、web世界とデバイスなしで繋がったり、同様の処置を施された人間同士でもネットワークを構築する研究が行われていた。  そして、幾度もの動物実験の末、ついに人体実験を行う段階へと進んだ折、我はその実験台に自ら進んで名乗り出たのだ。  と言っても、人類文化の発展に貢献したいだとか、そんな高尚な理由からのものではない。まあ、そんな気持ちも多少はあったかもしれないが、最大の理由はその実験台となることで、奨学金の返済免除が条件として提示されたからである。  自らも携わった動物実験で危険性のないことは承知していたし、そんなバイト感覚で引き受けた実験台であったが、これが我に想像していた以上の変化をもたらすことになる……。
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