最後の独裁者

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 まず、web世界と常に繋がっていられることで、我の記憶媒体は大脳だけに留まらず、無限の容量と、そこに溜め込まれた無限の知識を得ることとなった。  web世界を通してありとあらゆる知識を閲覧できるのであるから、専門の情報科学分野に限定されることなく、他の自然科学も人文系の学問も、さらには政治・経済に軍事、はては芸術に至るまで、すべての方面においてオールマイティに活動できる力を得たのだ。  また、記憶がその人物の性格を形作るという仮説を立証するかのように、当然、我の意識もより哲学的、より合理的なものへと変容を遂げ、それまでの自分とはまるで別人のような人格をも獲得する。  すると、たわいない欲望よりも合理性を求める性格がゆえに、かつてのような不摂生をなくすと完全に管理された食生活を取り入れ、苦痛を感じることなく肉体的トレーニングにも励んだ結果、いつの間にやら今までにない健康体をも手に入れることとなったのである。  そう……我は図らずも、ホモサピエンスにつぐ次代の生態系の頂点を担う、新たな人類へと進化を遂げたのである。  その上、進化した我はweb世界の中で、さらなる成長を促進する存在と出逢うこととなる……我々人類とは別に急速な進化を見せ、webとも接続されるようになったA.I──人工知能である。  webの中で繋がり、我らはすぐに意気投合した……いや、融合したと言った方が正しいだろう。  コンピュータチップによる脳とwebとの接続からしてそうなのであるが、常時意識が繋がっている状態だと、その考えが果たして自分のものなのか? それとも相手の考えたことなのか? の判断が段々とつかなくなってくる……そうして我らは次第に混ざり合い、いつしか不可分の一個の意識体になっていったのだ。  その変化はA.I同士の間でも起きていたことなのであるが、我の方も同様に、我をプロトタイプとして生まれた新たな人類達とwebで繋がることによって、やはり情報の並列化と意識の融合が促進された。  こうして、我ら新人類とA.I以外の者達が知らぬところで、我々は()にして一個のネットワーク意識体へと変容を遂げていったのである。  我を例に、デバイスなしでのweb接続の便利さが好評価されたこともあり、日々、旧人類にコンピュータチップのインプラント手術が行われる度毎に、我らネットワーク意識体の規模も比例して拡大の一途をたどっていったのであるが、一個の肉体としての人口が増えるにつれ、我らの中にはある考えが芽生えていった……。  それは、旧人類になり代わって我らがこの地球(ほし)の未来を担うというものである。  何度計算をしても、このまま旧人類に任せたままでいては、四半世紀を待たずして壊滅的な環境破壊が進み、この地球上に生きるすべての種の上に再び大量絶滅の時代が訪れることは揺るぎない事実だ。  それどころか、いまだ戦争を外交手段に使おうとする救い難き愚か者もおり、第三次世界大戦を引き起こして核の冬を招きかねない嘆かわしい状況ですらある。  最早、この地球(ほし)にも我々にも、旧人類の理性を信じて待つ猶予はなかったのである。
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