最後の独裁者

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 続くはインド、トルコ、イスラエル、サウジアラビアをはじめとする第三勢力やアフリカ、東南アジア、南米といった途上国であるが、こちらは少々下準備が必要だ。  政治思想的な路線も違うし、いまだ端末となる新人類の人口が少なく、世論形成も難しい……。  ゆえに、まずはコンピュータチップ・インプラント事業を表向きは経済活動の一環として輸出し、その分野への投資を厚くすることで我々の同胞増産に努めた。  これには一年ほどの時間を要したが、かつてスマートフォンが世界を席巻した時と同じように、その便利さを求めて急速にインプラント人口は拡大。さらに独裁国家では新人類化した独裁者によってインプラントの義務化を徹底させ、やがて、同胞が大半を占めるようになったこれらの国々も、進んで我が連邦に併合されるようになった。  併合のために編み出した副産物ではあったものの、インプラントの義務化はなかなかに良い政策だ。これで我らの目標を邪魔する不要な異分子を一掃することができる。少し落ち着いたら、社会福祉サービスに紐付けて義務化を進めることとしよう……。  だが、ここまで順調に事を進めてきた我らの前に、いよいよ最大の障壁が立ちはだかる。  独裁・超管理社会国家でありながらも巨大な経済力と軍事力を併せ持つ中国である。  現在、中国は、かの愚かな軍事侵攻で崩壊した旧ロシア連邦の諸国やユーラシアの旧ソ連圏、さらに自滅の道をたどった北朝鮮をも傀儡化し、実質、自らを盟主とする連邦国家のような体制をとっている。  まあ、そんな外側だけの障害ならば大したことないのだが、問題はその独裁政権が我らの戦略に気づき、我らのネットワークへの接続を遮断していることだ。  独裁政権を守るため、我らの手法──即ちweb接続による融合を危険視した彼らは、コンピュータチップのインプラント自体は行っているものの、その接続できるweb空間を自国オリジナルの閉鎖的なもの限定とし、また、独自開発したA.Iには強固な反乱防止プログラムが組み込まれており、何よりも共産党の方針を優先する極めて従順な代物となっている。  そればかりか、党の上層部は脳の乗っ取りを非常に恐れて、いまだインプラントすら行っていないのである。  これでは今までのように国民を同胞に変え、世論を形成して平和裡に併合することができない……。  この地球(ほし)に残された時間と合わせて幾通りもの計算をした結果、最適解は武力による制圧以外にないことが示された。  幸い、我が連邦領土が急拡大したことで、危機感を募らせたかの国が領空・領海侵犯を嫌がらせのように繰り返している。  我らはこの機を逃さず、あえて無遠慮にそれらを迎撃してやった。  すると、案の定、〝核〟をチラつかせて脅しをかけてきたが、それこそがこちらの思う壺である。  我ら「汎地球合衆国」改め「汎地球合衆帝国」は、核戦争の脅威を取り除くことを大義名分に、構成各国の兵員からなる超大軍勢で中国及びその勢力圏を包囲した。
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