The apparitions balancer /case . 1

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「方角?」 「ああ。鬼に遭ったらまずやることさ」  篠田はそう言ってスマホのコンパスを使い、ウロウロし始めた。 「あ~。そういうことか。建物が」 「なんだよ。わかったのか」 「この新館、旧館側から見て鬼門に立っている。つまり、丑三つ時に鬼門へ向かうというアクションを起こすと鬼が現れる仕組みらしい」 「だから行きの時は現れなかったんだな」 「そうだ。さらに、渡り廊下という『橋』が一番のスイッチになる。怪異や『障』が最も現れる場所は、辻、橋などの境界を表す場所だ。あちら側とこちら側の狭間の場所。『渡る』という行為が、見る力を持たない人にも鬼の可視化を起こすのだろう」 「確かに最初に『障』があったのも新館が建てられた直後だと言っていたな」 「防ぐ術はあるのか?」 「うん。ある」  篠田はゴソゴソとトートバッグを漁り、何かを取り出した。 「これは?」  ソファに並べられたそれを見る。 「張子だ。犬、鳥、猿を模っている。この三つの動物は十二支を図にした時、丑寅の方角と反対側にある動物なんだ。桃太郎の子分がイヌとサルとキジである理由の一つだとも言われている」 「へぇ。で、それをどうするんだ?」 「この渡り廊下の窓に並べる」 「それだけ?」 「それだけだ」  篠田はそう言い、その小さい張子を窓の下に並べた。 「これでいいと思う。コウ、もう一度向こうからこっちにきてくれ」 「えぇ……」 「なんだ? 私を信じられないのか?」  篠田は不満そうな顔で俺を見た。 「はいはい、わかったよ」  再びペンライトを手にし、旧館に足を進め、新館に向かう。  だが、『障』の気配は感じられなかった。俺はそのまま何事もなく新館へ到着した。その様子を見た篠田は満足げにうんうんと頷く。 「成功だな。では撤収しよう。ああそうだ、帰る前に伊丹さんにあの張子を動かさないように伝えなければ」 「そうだな」  俺が返事をすると、篠田は眠そうに大きなあくびを一つした。
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