いいこと

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~いいこと~  「わるいことって、なんでこうパノラマみたいに長く続くんだろうね」  ミルクティー色の淡い茶髪をした学生は、そう言いながら溢れた吐息は凍る大気と絡まりながら、二月に相応しい濡れた雪に沈んだ。  「逆にいいことだって、同じように続くじゃない?長編小説の上巻みたいにさ」  赤縁のメガネのレンズの曇りを拭いながら、凛々しい目付きの少女も答える。  お互いに目は合わせない。そういった恋人のような仕草は、二人には似つかわしくなかったし、必要性がなかった。ただ、夕焼けに不釣り合いなほど飾られた刹那の美しい街を、二人は並んで歩いていた(正確には、ロリスのように歩いているとすらいえないスピードで道をなぞるように進んだ)。  信号がふと点滅し始める。  まず、天然のミルクティー色でみつあみの少女が足を止め、それを横目に見たメガネの少女もつられて足を止めた。  履きすぎて塗装が古めかしい商店街のように剥がれたローファーが並ぶ。  その、みつあみの少女が俯いて歩くことは本当に滅多になかった。揃って帰ることも決して多くなかった二人だ。けれども数の少ない帰路の間、みつあみの少女がどうやって帰っていたかはいつもわかりやすく鮮明だったし、そうでなくても高校生活を過ごす上で、彼女の――少なくとも、友人の前で見せる――性格も理解していた。
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