いいこと

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 「それにしてもいきなり、さっきの問いはどういうこと?」  そう聞くことは四秒そこらで終えられる。どのようなトーンで訊ねるか考えるのにも数秒とかからないだろう。しかしその時、メガネの少女は何も言えなかった。何を聞いたとして、言ったとして、それは心境の確認に過ぎなかったからだ。あの沈黙を破った問いは答えも意味もなくて、みつあみの少女はただ完全な共感がほしかったからに違いなかったからだ。新しい情報は何も得られない。  代わりにメガネの少女は短くサラサラの黒髪を一度だけ手ですいてから、少しそっぽを向いて呟く。  「これくらいで終わらないじゃない。」 「終わらないけどさ」  少しふて腐れたように言うミルクティーの髪の少女から甘い香りがするのは乙女特有のラクトンの香りに相違ない。結局、高校の間ほぼ一度もこの香りが変わることはなかったなと、黒髪の少女はしみじみ感じた。  車の方の信号が黄色に変わり、信号無視に近い形で目の前をさっと通り過ぎた一台のトラックを悪態もつかずに律儀に待って、それからのんびり青に変わった人のシルエットをほんの少し眺めてから、二人はまた議員の牛歩のようにのろのろと歩き出す。
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