アフターエランはウサギとともに

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 精神的にも肉体的にも香奈枝は限界を感じていた。  泣き疲れてようやく眠った娘の真由を見つめながら、香奈枝は自らも泣きそうになっていた。  こんな時、相談する相手がいればと思うが、今はそれも難しい。  夫は医者でもうずっと家に帰って来ていない。  毎日無事だという連絡だけは来るが、いつ死んでもおかしくない環境に身を置く夫に頼ることはできなかった。  生きているだけでよかったと思わなきゃいけない医者など辞めてほしいと思うが、今の世の中では口が裂けても言えない。  幼稚園は入園して1カ月で閉鎖され通えなくなった。  それ以来、5歳になった今も真由はどこにも出かけられず家にこもったままだ。  最初は外に出たがった真由も家だけの生活に慣れたようだ。  友達に会えないのを寂しがるが、その友達がもはや生きてないことを真由は知らない。
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