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「……食べへんの?」
「え、あ、はいっ!」
結構長い時間、譲るつもりでぼんやりと過ごしてしていたのだが、一向に手を伸ばす気配がなくて聞いてしまった。
目の前にあるほぼ空の皿の中には、光沢を放つ包みに入ったチョコレートだった。
味はとても美味しく、一つ一つも大きくて食べ応えもある。
毎日少しずつ、食べて来た箱入りのものだった。
今日が最後だろう、と思って俺の人生のパートナーと一緒に箱の中に残っていたのは3個のチョコ。
二人で分けるには1つ多い。
とりあえず他のお菓子と一緒に皿に盛り、和やかな休日のおやつの時間を二人で楽しんだ。
「ええ返事なのは嬉しいけど……おーちゃんはこのチョコ好きやろ?」
「それを言ったら孝光さんもじゃないですか」
「せやけど……おーちゃん食うてええよ」
「いえ、孝光さんが……」
「最後の一個やで?」
「だ、だからこそです。喜んでほしいというか……僕は、もう、お腹一杯ですし」
これは嘘やな、と思いながらチョコを一つ手に取る。
名残惜しそうな、物欲しそうな視線が隠しきれていない所が可愛い所である。
「ほなちょっと予約しといてええ?」
「はい? なにをですか?」
「おーちゃんの可愛いお口」
「えっ」
包み紙を片手でサッと剥がしながら自分で咥え、おーちゃんの口にそのまま半分を分け与える為に近づく。
俺の意図が伝わったのか何の抵抗もなく、おーちゃんはそれを受け入れた。
チョコの溶ける感覚と暖かい感触に目を細めて浸ろうとしたときに、己の身体から急な警鐘に気付いて急いで距離を取る。
「……っはぁッ、げほっ、ちょっ、と……あかん、かったな……けほっ」
「孝光さぁん!」
涙目になりながら急いでお水を取りに行く背中を見守る。
「しなないでくださぁい!」
若干震える手で差し出された水を受け取って、一気に飲み干す。
それもバカには出来ひんのが食べ物詰まらせた時の困ったところやな、と思いながら俺は安心させるために笑いかけた。
「……はー……チョコ食うて最後になるんは嫌ややなぁ」
「僕も嫌です……よ、よかったぁ~」
「ありがとうなぁ。おーちゃんとわけたろ思ったんに、味わえんようにしてもうてすまんかったな。最後の一個やったのに」
「良いんです、孝光さんが無事でしたから」
「そぉ? 嬉しい事言うてくれるやん」
「はい。それに」
「ん?」
「また同じ箱のチョコ、買いに行きましょう、そしたら」
そこで少しだけ頬を染めたおーちゃんを見て、俺は意地悪く笑った。
「……また最後の一個で俺とキスしたいん?」
「孝光さん!」
「せぇへんの?」
「……します」
「おーちゃんのそういうとこ、好きやで」
「ありがとうございます。僕も、孝光さんのこと、好きですよ」
「ありがとうな」
――最後の一個、なんて揉める要素でしかないと思とったけど、おーちゃん相手やと喧嘩にはならへんのが楽しいな。
なんて考えながら俺達は箱に入ったチョコを探しに街へと出るのだった。
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