神様からの最後のひと息

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 ただ、今の絢香は当時のようなウキウキした気持ちで、この店のケーキを買っていたのではない。 父親が認知症で、自宅でみてくれている兄夫婦に感謝の気持ちとこのケーキが大好きだった父親にいくばくかの癒しになってくれたらという気持ちがあってのことだった。 絢香が行くと父親はとても喜んだ。 「お父さん、元気にしてた?かねこさんのケーキを買って来たからみんなで食べよう」 テーブルに兄夫婦と絢香と父親がつく。 食べようとすると「絢香、お前のうちの方に山田さんていただろ?あの人元気かな?」 父親が言葉を発するなり兄が 「いつの事を言ってんだよ!あの山田なんて言う人はとっくに死んでんだよ」 父親はびっくりしている。 確かに亡くなっているのを絢香も知っていたのだが、認知症の父親にそんなことを言わなくても良いのではないかといつもとても悲しくなるのだ。 でもそこで、絢香が兄に対して抗議したとしたら……。 たまに来て、父親と少し話して帰る絢香に一緒に暮らして世話をしている人の苦労がわかるわけがないことも理解していたので言うまいと決めていたのだ。
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