たまご

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 家に入り、どたどたと階段を登り自分の部屋に入ってドアをバタンと閉める。  たまごはベッドに置いて布団を掛ける。  なんとなく。 「蘭ー? 帰ったのぉ?」  階下から母の声がする。 「あ、うん、帰った。」  階段を上る音とノック。私はたまごを背中に隠した。  ドアを少し開け、母が顔を半分だけ覗かせる。 「ちょっとうるさいんだけど。手も洗わずになんなの?」 「いや、ちょっと……。」 「……予備校は?」 「え……えへ。」  母はため息をついた。 「また公園にいたんでしょ。最近あそこ不審者が出るって。危ないわよ。」 「うん。」  確かに危ない。 「もう行っちゃダメよ。」  こくこくと頷く。  うん、もう行かない。また変なものを拾ったら大変。  母はまたため息をついてから言った。 「とりあえず手を洗って着替えなさい。」 「はい……。」  母が去った後、ポケットに入れてあった紙を取り出した。 『孵し方』  どうやら温めなくても放っておけば孵るらしい。お手軽。  でもどこに置いておく?  両親も弟も勝手に人の部屋に入ってくるようなことはないが、万が一ということもある。  結局、私がいる時は布団の中、いない時はクローゼットの中に置いておくことにした。
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