たまご

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 改めてたまごを見る。  リボンはほどけかかっていたので取り除くことにした。  なんの卵だろう。ダチョウ?    ネットで調べると『検卵機』というものがあり、光に透かして中を見るらしい。  デスクライトを伸ばしてきて試してみるが、殻が厚すぎるのか見えない。  もっと強い光源が必要か……。  悩んでいると再び母の声。 「お風呂入りなさーい。」  翌日、電気屋さんとホームセンターに行き、工事現場用の投光器を買ってみた。たまごの中を見るためにこんな物を買うのはどうかと思うが、好奇心に負けた。  部屋に帰り、ベッドの壁際に投光器を置いて、その前に毛布を丸めて窪みを作り、たまごを置いた。  これで見えなきゃ5,000円の無駄だよ。  スイッチオン! 「あ……。」  たまごの中には、保健の教科書に載っているような丸まっている胎児。 「ひと……?」  人間ってたまごから生まれるっけ?  私はそのたまごを『たまごん』と名付け、それから毎日たまごの中を観察し続けた。  たまごんの中の『ひと』は少しずつ大きくなっていく。  朝、皿の上の目玉焼きに神妙な気持ちになる。 「蘭、明日模試じゃないの? お弁当いるんでしょ。」 「あー、うん、いる。」  母は受験についてとやかく言わない。父もそうだ。現役生で予備校に通わせてもらいながら伸び悩み、予備校をサボりがちな私にもちくちく言うことはない。  問題は私。  文系は決まっているけどやりたいことが見つからず、何者でもない自分を毎日突き付けられて罪悪感やら閉塞感やら。  学校でも、私以外の人はみんな目標を持っているように感じて眩しい。  何も言わない両親が逆にプレッシャー。  予備校、お金、高いよね。  おまけに最近失恋した。片思いだったけど。  そして、友達だと思っていた人に陰口を叩かれているのを聞いた。 『なにを考えているのかわからない』と言われてた。  知ってる。昔から少し他人と物の見方や考え方がズレていると感じている。
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