たまご

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「ねえ、お母さん。私にどうなってほしい?」  ダイニングの椅子から体を捻り、背後の畳コーナーでアイロンをかけている母に話しかける。 「どうなってって、職業?」 「それもあるけど。」 「親がこれになれとか言ってもねえ。蘭の未来は蘭のものでしょ。親はサポートするだけよ。」  アイロンをシューシューさせながらシャツを伸ばしていく。 「そりゃあね、一応いろんな経験はしているから話は聞いてあげられるわよ。でも受験のシステムも私たちの頃とは違うでしょ。アドバイスできるところはするけど。」 「ふうん……。」 「そういうこと言うの、珍しいわね。」  母がにこにこして言った。  そういえば今まで勉強のこと、友人関係のこと、そのほか色々な悩みとか言ったことがない気がする。  両親にも友達にも。    大学に行ってまでなりたいもの。一応ある。  それは幼稚園の先生。  私が通っていた幼稚園は私立で、先生も優しくて楽しくて悩みもなくて、人生で一番幸せな期間だったのではないか、とアルバムを見て今でも思い出す。  そういう体験を子供たちに与えてみたい。  少子化だし反対されそうだと思って誰にも言わないできた。  でも言っていいのかな。  私の未来は私のものだから。  たまごんは、中身がみちみちになったのか、ライトを当ててももう何も見えなくなった。   「……狭くない? そろそろ出てくる?」  もうこの投光器も必要なくなったかー。なんだか寂しいな。  翌日の夕飯の後、私は意を決して両親に向かった。 「あのね、幼児教育課程のある教育学部に行こうと思うの。」  両親は少し驚いた顔をしていたが「いいんじゃないの? またピアノ練習しなきゃねー。」と笑っていた。  児童心理学とか専門的に勉強すれば、いろんなことができるのではないかと、少し上を目指して国立大学の教育学部に目標を定めた。
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