たまご

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 部屋で勉強をしていると、横のベッドからピシッという音がした。  たまごんにヒビが入っている。 「たまごん!  え、え、孵る?」  おたおたしながら、たまごんの前に正座する。  ヒビはだんだんと広がりぱりんぱりんと殻の破片がベッドの上に散らばる。  手伝った方がいいかな、様子を見ても大丈夫かな。  心配で不安でたまらなくなる。 「がんばれ、たまごん!」  殻が落ちた隙間から白く発光しているような小さな手が出てきて殻を押し上げて割っている。  私はごくりと唾を飲み込んだ。 「あ、そうだ、服!」  クローゼットの中から私のTシャツを取り出した。 「えと、下着はどうしよう。私のでいい? いや、男の子だったら……、弟のパンツ?」  でも弟の部屋からパンツを取ってきたのがバレたら変態って言われる?  いや、オムツ? 用意してない……。  ちょっと待て。生まれたらどうしたらいい?  私が育てるの?  お父さんやお母さんにバレない?  うーんうーん唸っている間にもたまごんから出てくる手は少しずつ穴を大きくしている。  そして、殻の中から『それ』は姿を現した。  ゆっくりと立ち上がる、ほのかに発光するその『ひと』は私だった。 微笑みをたたえたその『ひと』は動けない私に近づき、私を抱擁した。  暖かい空気のような抱擁で、私は目を閉じた。  その空気は私の中に溶け込み、満たした。  たまごの中はこんな感じ?  たまごの中のような安心感と、外に出られた解放感。  目を開けた私の前にその『ひと』はもう存在せず、大きなたまごんの殻と投光器が残されていた。 【おわり】
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