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いつものようにやつれた顔で町を歩いていると、不意に声をかけられた。
「ちょっとあなた」
田舎の小さな町で、知らない人に声をかけられる事などないはずなのに、聞こえてくる優しそうな女性の声。あまりの空腹で幻聴が始まったのかと思いつつも振り返ると、1人のおばあさんが立っていた。
「随分とやつれて…ほら、これでも食べて元気出しなさい」
そう言うと、おばあさんはパルプのような素材で出来た四角い箱を手渡す。
「あの…」
「遠慮しないで。若いんだから、もっと元気な顔で歩きなさい」
遠慮の前に、事態が飲み込めないトオルを放って、おばあさんは去って行った。
「突然何なんだ?」
渡された箱をそっと開けてみると、そこには赤玉のたまごが4つ。
「たまごだ…たまごだ!」
スティックパンやもやし以外の食材は久しぶりだ。霞んでいた脳内が一気に活性化される。トオルは全速力で家まで駆けたい気持ちを必死で抑え、赤ん坊に接するように優しく慎重に箱を抱え、でもできるだけ早く家へと急いだ。
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