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水曜日。やはりおばあさんは現れた。
「ちょっとあなた。随分とやつれて。ほら、これでも食べて元気出しなさい」
箱を差し出すおばあさんの手を押し返す。
「大丈夫です。ちゃんと食べてますから」
「え…」
おばあさんの顔が曇る。それでも、強い気持ちで断らなければ、おばあさんは知らずに毎週トオルにたまごを渡し続ける事になる。
「そうなの…それなら大丈夫ね」
おばあさんは安心したと言うより、少し悲しげに背を向けて歩き出した。
(強い気持ちが必要だ!強い気持ちが!)
そう自分に言い聞かせても、おばあさんの悲しそうな顔はトオルに相当なダメージを与えた。
「や、やっぱり、頂きます!」
大のおばあちゃんっ子だったトオルにとって、それが他人のおばあちゃんでも、悲しませるという行為は信条に反する。
トオルの言葉を聞き、振り向いたおばあさんの顔がパッと明るくなった。
「そうかい?うちのたまごは美味しいんだから、きっと気にいるよ。しっかり食べて、元気な顔で歩きなさい」
「ありがとうございます!」
幾度となく手にした箱を手に、トオルはため息をついた。今日でたまご曜日を終わりにするつもりだったのに、結局断り切れなかった。
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