たまご曜日

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 翌日のパーティーは大いに盛り上がった。おばあさんから、少しの調味料や安い食材でもたまごを美味しく食べられる方法をたくさん教わった。料理が並べられた居間の壁には、たくさんの写真が貼ってある。ここに下宿していた学生達を写したものだ。皆、おばあさんを囲んで楽しそうに笑っている。それを見て、トオルは決心した。         その後、もうトオルが道端でおばあさんからたまごをもらう事は無くなった。代わりに、2人は並んでおばあさんの家の台所に立っていた。トオルは住んでいたアパートを引き払い、おばあさんの家で下宿を始めたのだ。経済状況を考慮してもらい、家賃は格安。その代わりに、毎週水曜日はおばあさんと一緒に食事を作る事になった。   「今日はたまご曜日よ!トオル君とたくさんたまご料理を作ったから、みんなで頂きましょう」    おばあさんの呼びかけで、居間に家族が集まる。トオルが名付けた〈たまご曜日〉という呼び方も、この家ですっかり定着していた。以前の下宿時代と比べると人数は少ないが、料理を前にしたみんなの顔は変わらず明るく輝いている。傍から見ると、たまご曜日なんて、ただたまご料理を食べるだけの普通の日なのかもしれない。だが彼らにとっては、そう名付けるだけで、普通の水曜日が特別な水曜日になる。おばあちゃんっ子だったトオルにとっては、おばあさんと仲良く並んで料理を作る癒しの時間。おばあさんは、トオルに得意な料理を教える事で以前よりも生き生きするようになった。そんな2人の幸せそうな写真は、以前の下宿生の写真と共に居間の壁に貼られている。おばあさんは、年は取ったものの、昔と変わらない明るい笑顔を見せていた。    たまごが結んだ不思議な縁。これからも、幸せなたまご曜日は続いていく。    
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