電波少女

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「ここが、桜島大学か!」  雲一つない晴れ渡る空。三泊四日分の衣類と道具を詰めたキャリーバックを引いて、ヤシの木が揺れる大学の正門前に立つ。八月も後半になり、残暑が厳しい。鹿児島のシンボル桜島を冠したこの大学は、鹿児島県で一番学部数が多い。その中の理学部には宇宙物理科がある。日本版ナサであるJASA(ジャサ)のロケット基地が二つもある鹿児島は宇宙への玄関口ともいえる。その立地を生かして、人工衛星を研究開発する研究室もこの大学にはある。もともと私が城東高校に入学したのも、桜島大学の宇宙物理科に入学するためだ。城東高校は桜島大学予備校と言われることもあるくらい、桜島大学に進学する生徒が多い。  周囲を見渡すと、私と同じようにキャリーバックを持った女子高生がきょろきょろしていた。そして私に気づいてこちらに走ってくる。 「すみません、天体観測実習参加の方?」 「あ、はいそうです!」  肩まで伸ばした髪に褐色の肌。優雅な中に活発さをのぞかせる雰囲気。 「ウチもなんよ! やけど鹿児島初めてで場所がようわからんくて」 「私は地元ですが、大学に来るのは初めてなんですよね」  今年のオープンキャンパスは急用で行けなかったので、今回はその代わりともいえる。 「とりあえず、地図を見に行きましょう」 「せやな。そこに地図あるで」  二人で門近くの構内マップを観に行く。これで万事解決。とはいかなかった。 「ん、理学部ないで?」  何度探してもそのマップに理学部がない。目線をさらに上に向けてみる。 「あ、これ」  キャンパス名を見て私は固まってしまった。 「ここ、上荒田(うえあらた)じゃなくて下荒田(しもあらた)キャンパスじゃん!」  この大学は上荒田と下荒田両方にキャンパスがあるのだった。
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