電波少女

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「ふう、何とか間に合ったね」  実習場所へ向かうバスの中。私たちと同じ参加者はざっと見た感じ二十名ほど。ここに来るまで走ってきたため、額に汗がにじむ。 「さっき会えへんかったらそのまま迷ってたわ。ありがとな」 「いえいえ。かく言う私もキャンパス間違えていただけだし」 「全員揃いましたね。名札を配りますので、自分の物を取って後ろにまわしてください」  一緒に窮地を脱した関西弁の女の子は前から回された名札を受け取る。そこから自分の名札を取り、私に見せる。 「そういえば、自己紹介してなかったな。ウチは星野朱里(ほしのあかり)。京都から来たんよ」  なるほど、だから優雅な感じがしたんかな。 「京都からはるばるきたのね。おじゃったもんせ」 「おじゃったもんせ?」 「かごんま弁で『いらっしゃいませ』って意味だよ」 「なるほどなあ。『メンソーレ』やと思うとった」 「それは沖縄」  朱里が持つ名札の束の中から自分のものを受け取りながらツッコむ。 「私は笹原七海(ささはらななみ)。地元はここ鹿児島だよ」 「よろしくね、ななみん!」 「な、ななみん?」  はじめからニックネーム呼びする人は初めてでびっくりした。でも、その方が距離を縮めやすくて助かる。 「あ、嫌やった?」 「ううん。むしろうれしい。私もあかりんって呼んでいい?」 「もちろん!」  バスが動き出すと、引率の先生から説明が始まった。バスはこれから一時間ほどかけて、桜島大学が利用している望遠鏡の場所へ向かう。一日目は望遠鏡についての学習。二日目はグループに分かれて観測。最終日はその結果の発表という流れだ。一通り説明が終わると、再び雑談タイムが始まる。 「あかりんは、どうしてこの実習に参加したの?」 「ウチは、小学生のころ天文台で流星見たんがきっかけかな。小学低学年の頃は親の仕事の関係で福岡におったんよ」 「福岡おったことあるん!」  突如、後ろから女の子の声がした。振り返ると座席の女の子がシートの上から顔をのぞかせていた。彼女のツインテールがピョンピョンはねた気がする。気のせいだと思うけど。 「「びっくりしたあ」」 「あ、ごめんごめん」  彼女はちょっと恥ずかしがりながら謝ってくる。 「ウチの美穂がすみません」  彼女の隣に座っていた男の子も通路側から申し訳なさそうに顔をのぞかせる。 「大丈夫ですよ。びっくりしたけど」 「大丈夫やで。二人は付き合ってるん?」  初対面で聞く話題かよと心の中で朱里にツッコむ。 「うちとマサにぃは幼馴染なだけやけん」  彼女はツインテールをいじりながら、先ほどよりかなり小さい声で答える。 「そうなんやあ」  朱里は棒読みで返した。こうもズカズカ、話を聞いていくのはさすがだなと感心する。 「あ、まだ名前を聞いてへんかったな。ウチは星野朱里で、隣に座っているのが佐々木七海ちゃん」 「『笹原』七海です。よろしく」  朱里はコミュ力の塊だ。ついでに私の分まで紹介をしてくれた。……苗字は違っていたけど。 「うちは白鳥琴水(しらとりことみ)。福岡から来ました! よろしく!」  額の上でピースする。 「そしてこっちが幼馴染のマサにぃ。なんかついてきた」 「なんだよその言い方。俺は鷹巣雅彦(たかすまさひこ)。よろしく」 こう見ると、この二人は恋人というよりかは兄妹感が強い。実際、琴水は雅彦のことをマサにぃって呼んでいるし。 「ことみんは一年生なん?」 「え、みんな高一やなかと?」  琴水はきょとんとする。若干、わざとらしさも感じるが。 「そもそも俺は高二だろうが、琴水」  この実習は高校生であれば参加できるが、高三は受験があるので参加は高一と高二が多いらしいと諸星先生が言っていた。 「そういえば、みんなはどのコースで来たん?」  この実習には光赤外線望遠鏡コースと電波望遠鏡コースそれぞれ8人ずつ参加している。観測は一グループ4人に、アシスタントそしてくれる大学生が一人ずつつくらしい。 「うちらは電波だよ! ね、マサにぃ」 「電波の部分だけ切り取るとやばい奴みたいだろ」  宇宙の話題じゃなかったら、確かにやばそうに聞こえる。しかもこの狭い空間でツインテールを振り回している。電波天文を愛する少女。電波少女。なんか某TV番組みたい。実際に見たことはないけれど。 「佐々木さん、俺らそんなにおかしい?」  おっと、顔に出ていたようだ。 「いやごめん、タコス君。あと、さっき訂正し忘れていたけど私は笹原」 「ごめん、笹原さん。それと俺は鷹巣な」 「うちのマサにぃと夫婦漫才しないでくれる~?」  これ、夫婦漫才なの? 「ことみん、嫉妬しとるん?」  朱里がいじらしく問いかける。 「し、嫉妬してなか! 佐々木さんがショートボブでマサにぃのタイプであることで嫉妬してなか!」  いや、思いっきり嫉妬されていますよね、私。そしてまた名前違うし。ついでに雅彦は私から顔をそらす。ここで二十一人目来ちゃう? 「だったら、琴水ちゃんもショートボブにしたらいいんじゃないの?」 「うちはうちのスタイルを貫くけん。例えマサにぃが頼んでも曲げんもん!」  芯が通っていてかっこいい。 「じゃあ、鷹巣君、言ってみて」 「え?」 「いいから」 「琴水のショーツヘアも見てみたいな」 「……マサにぃが言うなら、考える」  思いっきり揺らいでいるのですが。
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