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バスに揺られること一時間。目的の観測所へ到着した。観測所の周囲は大学の農場が広がり、牛が草をもぐもぐ食べている。そして観測所の中央にはひと際大きい、口径二十メートルのパラボラアンテナが鎮座していた。
「これが、電波望遠鏡か」
数字で聞いても大きいのは分かるが、実物を見ると圧巻。
「全力で走ってきたら十秒かかったよ」
「いつの間に走ってきた!?」
カーブで速度落ちるのに五〇メートル八秒台って、速くないですか、琴水?
「はい、では、全員いますかね。今回、皆さんの監督責任者の亀谷新一(かめたにしんいち)です。三日間よろしくお願いしますね」
「「「「よろしくおねがいします!」」」」
「今日は、電波望遠鏡と光赤外線望遠鏡の紹介・見学。明日、明後日はグループに分かれて観測。最終日はその結果を発表してもらいます」
「まずは、皆さんの目の前にあるパラボラアンテナですね」
まるで大きなお椀を上に向けているような建造物を指し示す。
「先生、どうして真上を見ているんですか?」
「いい質問ですね。どうしてだと思います?」
「質問返しされた」
質問した男の子が口を膨らます。すると、琴美が手を挙げた。
「お、白鳥さんわかる?」
「バランスをとるためやろ? 何トンかわからんけど、横向いていると支えているところの負荷が偏るけん」
「その通り。支柱まで含めた重さだったかは忘れてしまったけど、重量は380トンになります」
「え、インド象七六頭分!」
「分かりやすいんか分かりにくいんかようわからん例えやな」
それはよく言われる。でも、この例え方はポピュラーな方だと思うんだけどなあ。
「皆さんも、長時間頭を前のめりしていると首や肩が疲れますよね? このパラボラアンテナも一緒。使わないときは真上を向いて、負荷を分散させているんです」
それから、いろいろな説明があったけど、あまり頭に入っていない。星の話だと五時間でもノンストップで聞けるのに不思議だ。そんなことを考えていると、大学のお兄さん、お姉さんたちが黄色や白いものを望遠鏡近くの建物から運んできた。
「それでは、一人一つずつ受け取ってください」
その正体はヘルメットだった。
「なんでヘルメット配られたん?」
「今から登るんちゃうん?」
「へ、どこに?」
朱里と話していると、メガホンを持った亀谷先生がアナウンスする。
「今から、このパラボラアンテナに登ってもらいます!」
「え、まじ!?」
その建造物を見上げる。このアンテナに上るというのか。
「うち、高いとこ無理」
「じゃあ、琴水はここで留守番な。」
「マサにぃは行くと?」
「せっかくやけん、いくわ」
「……それなら行くわ」
「え、琴水二階の高さでも無理やん?」
「そうやけど……」
「雅彦君、琴水ちゃんと一緒にいてあげたら」
「そうする」
「だめ、行く」
「え、でも」
「マサにぃがうちの為にしたいことを我慢するのはダメ」
「うう、魔界に引き込まれそう……」
「だから無理するなっていったのに」
途中で風が吹く。
「うおっ」
「ここは山の上で強い風が吹きやすいので気をつけてくださいね」
「やっと、着いた」
「ほら琴水、遠くを見てごらん」
「ふえ? おお!!」
一面の牧場。牛や馬が小さく見える。北の方には光赤外戦望遠鏡があるドームがたたずむ。遥か東の方角には、うっすらと海も見える。
「ねえねえ、ななみん。あの二人完全にいちゃついてやがりますなあ」
「あれで付き合ってないとか無理あるよね」
雅彦の右腕にしがみつきながら遠くを眺める琴水は何とも絵になる。
「あの二人モデルにラノベ書こうか」
「あかりん、小説書いてるん?」
「まあ、趣味の範囲やけどな。今後の為にあの二人は観察させてもらうわ」
そんな話をしている私たちの背後に気配を感じる。
「何の話しとるん?」
右手でがっつりと手すりをつかみ、左手でツインテールを回しながらにらみつけている少女がそこにいた。
「「いや、なんでもないで!」」
つい私も関西弁で返してしまった。そしていつの間に背後に来た!? 今の今まで前にいたのに。
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