卒業式なんか、サボっちゃえ

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 二人の女の子は、わたしの指示どおり、縄を木と柵に括ってくれた。これで、道が出来たぞ。 「よし、降りよう」  恐る恐る木の幹を降り、ピンと張られたロープに跨る。豚の丸焼きみたいな姿勢になりながら、ちまちま縄を渡っていく。 「頑張れ、お姉ちゃん」  見守る小学生たち。試練を乗り越え、向かうわたし。ああそうか、ここはサーカスなのだ。永井人気サーカスショーに、二人もお客さんが来てくれたんだね。この綱渡りを乗り越えたら、お客さんから拍手喝采よ、頑張れしおり。  ぷるぷる震える縄。赤くなった手。もう限界。その時、わたしの目の前に、王子様が現れた。サラサラのきのこ頭。ぱっつん前髪。ちんちくりんな男の子。そう、今日告白の約束をした、倉本菜好希くんだ。 「しおりちゃん、卒業式の時、いなかったけど、こんなところにいたんだね。今日の約束忘れてなくて良かった」  緊張で、薄紅色に染まる頰。真剣な真っ直ぐな瞳。彼の姿を見ていたら、咲いているはずもない、桜の花が満開に咲き乱れる様子が脳内に浮かんだ。花吹雪となって、わたしと菜好希くんの二人を包む花びらは、ロマンチックで、わたしは胸がキュンキュンした。 「しおりちゃん、一年生の4月、同じクラスになったね。隣の席で、しおりちゃんが笑ったり、冗談を言ったりする可憐な姿が好きでした。僕はこの3年間、しおりちゃんのことが大好きです」  たまり溜まった心のうちを打ち明けた彼の姿は、期待で満ちていた。恋をしている人って、何でこんなに美しいんだろう。 「菜好希くん、わたしのこと、好きになってくれてありがとう。一生懸命想いを伝えてくれて、とっても嬉しかった。今から、告白の返事をするね」  わたしは深呼吸をして、心の準備を整えた。
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