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「そろそろ8時になるよ。起きたら~?」
優しい小鳥のような声が俺を呼びかける。
柔らかい朝日が部屋に差し込み、窓辺の観葉植物を照らす。
そんな隣に、妻はいた。
「ううん……起きるよ」
目を擦りながら体を起こすと、愛おしそうに微笑んだ。
「子供みたいね。あの頃、そっくり」
いつになっても、変わらないね、頬に手を伸ばしながら呟いた。
本当に、結婚したんだ。
式を挙げてから、半年が経つのに実感が湧かなかった。でもこうして、隣に居て、毎朝顔を見ると安堵する俺がいる。
もう二度と、離さない。
不安に押しつぶされて、声を殺して泣いていた姿は見たくない。
「ほら、朝食よ。昨日、卵買ったばかりでね新鮮なの。美味しいと思うよ」
無邪気な笑顔で机に置かれたのは、たまごやき。
甘い香りに、鮮やかな黄身。これを見ると、しみじみ思う。
〝幸せの象徴〟だと。
幼い頃から食べていて、安心して暮らしていた時の食べ物。
今だってそう。幸せで溢れた家庭に、たまごやき。それも、妻が造ってくれたと思うとなおさらだ。
「どうかしたの?」
「いや。何も」
そして、一緒に幸せを分かち合えるのも。
「あ、たまごやき!! お味噌汁から飲みなって」
「いいじゃん」
「……じゃあ、いいよ」
芯が強くて、仲間思いで、でも少し抜けてるところも、全部好き。
「どう? 美味しい?」
「うん」
「良かった。あ、ほんとだ!! 美味しい~」
「可愛い」
「ちょ、え、何…言ってん…の」
こうやって、からかいたくなるくらい可愛くて、
つい意地悪もしちゃうけど。
それくらい、好きだから。
「冗談ですよ。信じたの?」
「何それ!! 信じてないし!!」
「ほんと?」
ああ、本当に幸せだ。
こんなやりとりがずっと、続きますように。
幸福の味が口に広がる――
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