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「夏南央、写真撮ってくれっ!」
先生にスマホを渡すと、僕の隣りに雷太さんが並んで肩を組む。
何枚も撮るから、いい加減先生の機嫌が悪くなって
「もう、いいでしょう?」
次は俺の番、とばかりに雷太さんにスマホを渡して撮って貰おうとしているのに、「さぁ、早く!早く中に入ろう!」と式場内に入ろうとする雷太さんにお冠の先生。
「ったく… ほら、撮ろう」
スマホを手に思い切り伸ばして、漸く先生と二人で撮れた、嬉しい。
「その写真、後で送ってくださいね」
「ああ」
嬉しそうに笑う先生が眩しい。
色々あったけど、大学生になった僕は夏南央先生と恋人同士の付き合いを続けられている。
先生は埼玉に引っ越してしまい、簡単には会えないのが難点。
都内の学習塾で働く事になった先生で、小学生の学習塾と聞き目茶苦茶に安心した。
夏海くんの高校の入学式ももうすぐだ。
はっ!
この格好で入学式に行くの?
やだよ、皆んなの目が先生に釘付けになっちゃうじゃないか。
「夏海くんの入学式、僕も行っていいですか?」
思わず訊いてしまったけど、答えは勿論、
「なんでだよ? 駄目に決まってんだろう」
「じゃあ、スーツ以外の格好でって事で」
「お前、嫉妬してんだろう」
……… するでしょ、そりゃ。
こんなにカッコいい恋人を持って、苦労が絶えない僕の気持ちも分かってよ。
…… ふふっ。
✴︎✴︎✴︎
「どうだ?大学は?」
仰向けで寝ているの僕の頬を、上から愛おしそうに見下ろし、撫でながら先生が訊く。
「うん、お洒落な人がいっぱいで何だか気後れがするよ」
「……… 」
「え?」
無表情になっている先生の顔に、問い掛けた。
「周りの奴の事なんて訊いてないよ」
「だって大学の事は先生だって良く知ってるじゃない」
「そうじゃなくてよ、授業とかそういう事だよっ!」
全く… と呆れたように裸でベッドから出るとシャワーを浴びてくる、と浴室に向かう先生。
「なんで怒るの? 僕もシャワー浴びる」
音符マークを飛ばして、そう言いながら後を追うと、
「葵葉は俺だけ見てればいいんだよ」
シャワーを上から浴びながら抱き合って熱いキスをするから、また勃っちゃったもん、責任とってよね。
「夏海くん、もうすぐ帰ってくるんですか?」
シャワーを浴びながら、お風呂場でもう一度繋がってサッパリとした体で髪の毛を拭きながら先生に訊いた。
「葵葉さぁ、敬語になったりタメ口になったりの違いって何?」
意識をしていなかった事を言われてキョトンとした。
「それに… 『先生』って、俺はもうお前の先生じゃないし… 」
だってじゃあ、どう呼べばいいの? 学校の先生だって、卒業後にあっても『先生』だし。いいじゃない、『先生』って呼んだって… そんな風に思っていた時、
「ただいまー!」
元気に夏海くんが帰ってきた。
「今日、葵葉さんが来るって聞いたから急いで帰ってきたんだっ!」
相変わらずに素直な夏海くん、先生と大違い。
「あれ? お風呂に入ってたの? まだこんなに明るいのに」
笑顔で夏海くんが訊くから、ドッと汗が噴き出して困った。
「な、なんか今日、暑くなかった? 汗掻いちゃってさ… 」
しどろもどろで頭も掻いた。
「あれ? 兄ちゃんもお風呂に入ったの?」
「ん? ああ、サッパリするぞ、夏海も入れ」
流石先生、ちっとも動じないで夏海くんに話す。
「二人とも、隠さなくたっていいんだよ〜、僕、知ってるもん」
眉と肩を上げながら、背中に背負ったリュックを下ろしながら夏海くんが言うから、ドギマギとして先生と二人して顔を合わせ、汗だくになった。
夏海くん、まだ高校に入ったばかりなのにな、ませてるな… 。
流石の先生も少し焦っている。
せっかくシャワーを浴びたのに、また汗まみれの僕達。
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