不穏な匂い

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「やっぱり〜!ショウ!やっだぁ〜もうっ!会いたかったんだからぁ〜」 ショウ? 夏南央先生の顔を見ると、明らかに忌まわしい顔つきをしていた。 その顔を見て僕は即座に何なのか見当がつく、レンタル彼氏のバイトをしていた時の名前だろうと思った。 「葵葉、夏海連れて向こうで待っててくれ」 「はい… 」 夏海くんの腕を引いて離れるように歩き始めたけれど、夏海くんがその女の人から視線を外さないでずっと見ている。 「ねぇ、『ショウ』って、あの女の人、兄ちゃんの事を呼んでたよね」 訝しげに僕に訊くから、 「そ、… そうだった?」 とりあえず気付かないフリをしたけど、僕だって気になる。 女の人は夏南央先生にベッタリとくっ付いていて、夏海くんだって不愉快そうにして見てる。 「元カノかな? でも、あんなの兄ちゃんの好みじゃないのに」 「……… 」 「葵葉さんもいるのに失礼過ぎるよ、兄ちゃんに言ってくるっ!」 「だっ!大丈夫だよっ!」 先生の元に怒鳴りに行きそうな夏海くんの腕を掴んだ時、先生がスマホを操作しているのが目に入ると間も無く僕のスマホにメールの知らせで「ブッ」と振動がした。 『夏海と一緒に先に帰ってて』 え? 思わず先生の方を見ると目が合って、気まずそうに逸らしたから余計に気になった。 「えっ!? 兄ちゃん、女の人とどこかに行っちゃうよっ!」 「… 知り合いみたいだよ、先に帰っててって…… 」 「いいのっ!?」 いいわけないじゃん、でも… 仕方ないよ… 「帰ろう、夏海くん、僕の家に来る? 雷太さんに美味しいものを作って貰おうよ」 納得いかない感じの夏海くんだったけど、『雷太さんの美味しいもの』で少し気持ちを切り替えられた様だった。 「なんだよ、来るならもっと早く言ってくれれば、もっとご馳走を作れたのに」 急に連絡して夏海くんを連れて帰ったから、冷蔵庫にある物で作ったと残念そうに言ったけど、完全なご馳走で、雷太さんもそれはそれは嬉しそうだった。 「夏南央は?後から来るのか?」 何も知らない雷太さんが悪気がなく訊く。 チラッと夏海くんの視線を感じながら、「どうかな?」と答えた僕の顔で雷太さんは察する。 「夏南央はいつまで経っても、葵葉を泣かせてばかりだなぁ」 ふぅぅ〜っと溜め息を吐きながら雷太さんが言うから、夏海くんが心配そうな顔をする。 「な、泣かされてなんかないよっ!夏海くん、僕、泣かされてなんかないからねっ」 「葵葉さん… 兄ちゃん、やっぱり勝手をしてるんじゃないの?」 「そんな事ないよ… 」 どうしてだろう? 僕は別に夏南央先生に不満なんか何もないのに、周りにはそんな風に見られる。 やっぱり、夏南央先生があんなに格好良くて、僕はこんな風に頼りないからかな? だったら、愛想を尽かされてしまうのは僕の方だと思って胸が少しチクリとした。
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