無傷の勲章(染井絹)

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 ベッドに横たわってからの椿屋くんはやけに甘い。甘いのは容姿だけだと思っていたけど、今現在に限ってはそうでもない。  そのくせ筋が浮き出た硬い腕とか天使の羽みたいな背筋とか薄く畳まれた腹筋とか、普段は隠されている美少年の雄っぽさが濃厚でくらくらする。  視界を塞いでいた右手が剥がれて、素肌をなぞる。物足りないほど柔らかな手つきがゆっくりと丁寧にわたしを暴こうとしていた。 「いま、話しかけてもいい?」 「ん」 「椿屋くんは、わたしのことを誰かの代わりにしているの?」  そのとき初めて、彼の瞳が光の明度によっては緑色にも見えることを知る。椿屋くんは纏う色のすべてがあまくて、雪のように白い肌と濡れたような黒髪の是永くんに重なることはできなかった。  こちらの質問を咀嚼するために数秒を要してから、彼は素肌をわたしのそれにぴたりとくっつけた。吸い付くような肌感の接着面から、わたし同様に上がっている彼の体温が伝わってくる。 「おしえない」 「っあ、」    たっぷりの時間を使って馴染ませながら挿入されたとき、意外にも痛みは感じなかった。  おそらくだけど、彼自身はきもちいいとか味わう余裕もなかったと思う。それくらいわたしの顔色ばかりを窺って事を進めているようにみえた。 「染井さん、いたくない?」 「ん、」 「そっか、えらいね」  ほんとうに、処女を奪いたかっただけなのだろうか。行為によって得られるものではなく、ただただ行為そのものに意味を見出しているようだった。  椿屋くんなら容易く味見させてもらえるでしょうに。わざわざ美味しくなさそうなわたしに手を出すなんて、あんまり自分で言いたくないけど、ゲテモノ好きみたいなひと? 「どうしよ、死にたくなってきた」  数ミリのゴムを隔ててピースとピースを嵌め込むような作業のなか、耐えるように眉間に皺を寄せた天使が言う。  交尾って、テトリスみたいにするものだという事前の認識はあながち間違っていなかった。けれど、いざ体験してみると鍵穴にぴったりと嵌る鍵を差し込むような行為でもあるのだと知った。学習能力の高いわたしはそれを口にしなかった。
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