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…………もう、いつからこうしているか分からない。
目の前が血溜まりだ
ぬるくて、鉄くさい
これは、おとうさんとおかあさんの血だ
端っこでうずくまっていると、あたたかかった部屋が、どこよりも怖い場所に思えた
いつのまにか僕は泣きつかれて、寝てしまった
「~~!!~。~~~!」
人の声が聞こえた
女の人の声
おかあさんより、すこし高い
耳をぴんっとそばだてる。
おかあさんに習った。音を上手く拾うためには、こうすればいいんだって。
ジュウジンが混じっているから、僕には大きな耳がある。
おおかみだっておとうさんにおそわった。
………声が、聞こえた。
「………る?声、聞こえる?遅くなってしまい御免なさい。助けにきましたよ!」
久しぶりに目を開けると、綺麗な女の人がいた。
透き通った蒼い瞳が、真っ直ぐ僕を見ている。
僕が目を開けると、女の人はほっと胸をなで下ろした。そして、ひょいと僕を持ち上げる。
僕は血でべったりだ。
綺麗な服が汚れちゃう。
それでもその優しい拘束を解くほどの体力は僕には残っていなかった。
そこからはよく、覚えていない。
◇
12年後
「……きろ、………起きろ馬鹿弟子」
声が、聞こえた
大の男を片腕で薙ぎ倒す、凶悪な女の声。
勿論自分を助けた人とは別人だ。
目を開けると、赤茶色の髪が目をひく女性がいた。
師匠のマリスだ。
すらっとした体格と、整った顔立ちからは、とても魔物狩りに長ける蛮族じみた剣士とは思えない。
「詰め所、朝飯食ったら直ぐに来い。」
起こして早々要件だけ伝えてくる。
反論はある。
「今日は休みでは…」
「休んでたじゃないか、今、睡眠」
当然のように師匠は言った。
「二日振りの睡眠は、休みとは言わない」
すかさず言い返す。
6つの時からの付き合い。今更遠慮はない。
「知るか。こちとらほぼ五徹だ。騎士でもないがきんちょ兵士のお前が、近衛特戦隊に入隊出来ているのは、その仕事をこなす早さと量所以だろう?王妃様が身籠もられたんだ。これからもっと忙しくなる。」
「………。」
特殊部隊に入っているとはいえ、自分はただの一般兵士。対して師匠は近衛騎士。天と地程の差があるため逆らえない。
とてもとても度し難い。
自分を助けたのは、現地調査に赴いていたこの国のお妃様だった。
家族が惨殺され、数ヶ月間家の隅で震えていた自分を保護してくれたのだ。
混血であることから研究所送りにされそうになっていた所を止めたのもお妃様。
獣人は身体能力と生命力が高いからと少年騎士団に入隊させたのもお妃様だという。
つまり、少なくとも自分は2回お妃様に助けられたことになるらしい。
妙に他人事なのは、何も覚えていないから。
自分は完全な獣人でないから、異常な寿命や生命力を維持するために、過去の記憶は徐々にリセットされていくようだった。
本当に白紙になる。怪我や流した血の量に応じて記憶も抜け落ちていく。
父の顔も母の顔も覚えていない。
手早く着替え、髪をまとめた。
鏡に映る自分の顔。
この茶髪は父譲りだという。
この金の瞳は母譲りだという。
いつからか、髪は切るのが面倒くさくなり、うしろでまとめられるほど長くなってしまっていた。
鏡の中の自分の顔に、やはり父母の見覚えはない。
今年で多分15歳になる。
人でもないし獣人でもない。
いっそ研究所送りになった方が国に奉仕できたであろうマザリモノ。
年齢的に騎士への昇級試験も受けられないのに、ひょんなことから近衛騎士の特殊戦闘部隊に入隊することとなった兵士。
これが自分
固有名詞で表せば、リデオ・ソレーユ
アルチェアリ王国の少年兵だ。
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