卵?

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卵?

 なぜそうなるのか、あたしにはわからないけれど、自分の意思とは無関係にいつの間にか視界は高くなり、地面から離れていき、履いている靴も段々と大きくなっていった。 背が高くなるだけなら男の子と同じ。でも、あたしは女の子に生まれた。小学生の頃は途中までは無邪気だった。男の子も女の子も「ビョードー」だと学校の先生が教えてくれた。素直に信じていたの。でも、本当は「ビョードー」なんかじゃないとある日気がついた。  五年生になると女の子だけが学年から集められて保健室の先生から大切なお話がある。空気を読む頭の良い上品な男子は何も聞かずに知らんぷりをしてくれる。動物園の牛の群れ並みにモーモーとうるさい下品で馬鹿な男子は、大切なお話から帰ってきた女子をからかう。 「セーリの話だろ?」 「きったねえ、ガキじゃないのにオムツかよ」 「やーい、セーリ!セーリ!」 女子のほとんどは泣きそうな顔になってうつむいている。お話の最後に貰ったナプキンのサンプルが入ったビニールの黄色の巾着袋を机の中に隠したり、ロッカーのランドセルの中にしまったり、うるさい牛の群れのように騒ぐ男子がジロジロと見るから、恥ずかしいみたい。  あたしはませてて気が強い方だったから、わざとそのひまわりみたいな黄色をしたビニールの巾着袋の口を開いて、自分の机の上にナプキンを一個出して見せてやった。闘牛士が赤いマントをひらひらと靡かせるように、サンプルで貰った不織布タイプの羽なしナプキンの包みを開いて見せる。包みの白いビニールに開いたナプキンを使うときと同じように貼りつける。知能が牛以下の男子が騒ぐのを止めて、あたしの大胆な行動に言葉をなくす。 「女子は毎月卵を迎える準備をして、お腹の壁が厚くなる。お腹の壁が厚くなるのは卵を守るため。卵が赤ちゃんにならなかった時には月経が来る。それのどこが汚いの?」 冷たい目でさらっと言い放ち馬鹿な男子を睨みつける。牛の群れのボス格の平山は、子分の牛達から舐められないように言い返してくる。 「じゃあよ、牧田。男とヤリ続けりゃセーリは来ないじゃん。卵を無駄にしたらもったいないって。命は大切にってこの間の授業でやってたよな?もったいなーい!もったいなーい!」 馬鹿男子でこそこそと道端で拾ったエロ本の回し読みをしてるだけのことはあって、言い方がえげつない。減らず口の平山を黙らせる究極の一言をあたしを思いついた。 「うるせえよ、精通も来てないガキの癖に」 山勘で適当に言っただけなのに、平山は顔を真っ赤にして金魚のように口をパクパクさせて何も言い返せなかった。理科の授業をちゃんと聞いてれば成長期は女子が早く男子が少し遅いのは誰でも知ってること。どうやら図星だったようで、平山はなんとか捨て台詞を考え出した。 「キモイエロ女!つまんないからもう行こーぜ!ドッジやるべよ」 牛の群れの男子は校庭へと走り、ドッジボールに逃げた。
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