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ニワトリを飼い始めた。ちゃんと朝4時に鳴き出すし、エサをあげるとアホみたいに食べるし、小屋は掃除してもすぐ糞だらけになってちゃんと臭い。もちろん卵は産むが、すぐ取らないとあっという間に糞だらけだ。三羽飼っていて、三羽ともちゃんとニワトリという名前がついている。遊びに来た友人に名前は全部ニワトリだというと、一羽ずつ名前を変えろと言われたので、ポチとタマとアルキメデスと名付けた。ポチは雄だから卵は産まないし、気性が荒いし、おとなしい雌のアルキメデスをいじめる。一方、もう一羽の雌のタマは比較的気が強い性格なので、いじめられるのはいつも決まってアルキメデスであった。アルキメデスはおちおち餌も食べていられない。餌に近づこうものなら、ポチが馬乗りになって鋭い嘴で執拗に噛んだ。飼い始めてしばらくして、アルキメデスはハゲが目立つようになった。日に日にやせ細り、飼い始めて2ヶ月がたつ頃、餌をあげようと小屋を覗くと、アルキメデスはすでに息をしていなかった。アルキメデスは畑の柿の木の根本に埋められ、ポチとタマは何事も無かったかのように変わりがなかった。このニ羽はあまり争うことも無かった。餌もニ羽で食べた。タマは週に数個卵を産んだ。卵はいつも決まって目玉焼きにした。小ぶりの目玉焼きは、トーストにのせてもパンをを半分隠すのがやっとだった。それから半年ほど経って、夜になるとポチが鳴くようになった。どうやら夜中に野生動物がポチとタマを狙ってくるようだ。朝、餌をあげるときにポチの抜けた羽が目立つようになった。タマはあまり怪我をしていないようだった。しばらく経った朝、ポチは死んでいた。首から上が引き裂かれ、無くなっていた。タマは無事だった。三羽いたニワトリは一羽になった。手狭だった小屋も一羽になってからは広々としていた。残ったニワトリは雌なので、早朝に鳴き出すことも無かった。動くのは餌をあげるときくらいで、あとは決まって糞だらけの小屋で、うずくまって日向ぼっこをしていた。ある日、ニワトリの飲み水を交換しているとコトッと音がした。産んだ卵が床に落ちた音だった。目の前で卵を産んだのは初めてのことだった。卵にふれると、まだ温かかった。いつものように目玉焼きトーストにした。
僕は高校に進学して、世話をすることはなくなった。ある日、久しぶりに畑に行くと、空っぽの小屋だけが残っていた。糞まみれだった小屋も、今ではきれいなものだった。
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