side 上条蒼也

2/2
前へ
/16ページ
次へ
「蒼也」 「……父さん」 柚原と一夜を過ごしてから数日経った木曜日の早朝。 自室に父が訪ねてきた。父は遠慮なく中に入ると、スーツに着替える俺を見ながら言った。 「月曜日の夜はどうだった?それが気になって俺はこの数日慌ただしくしてたはずなのに、あまり仕事が身に付いていない」 「……よくいうよ。完璧なプレゼンしたり、雑誌の取材受けてたくせに」 「見てたのか」 「鈴村さんや司馬が、ちゃんと教えてくれるから」 「なるほど。お前の行動は逐一報告を受けているが、俺の動きも知られているんだな」 「お互い様」 最後にネクタイを首にかけて結ぼうとすると、父が近寄ってきて俺の首に手を伸ばしてきた。 「……えっ、ちょっと」 「結んでやる」 「……もう結べるよ」 「初めてスーツ着た時、ヨレヨレになっていたお前のネクタイ姿が忘れられなくてな」 父はふと笑いながら、俺のネクタイを器用に結ぶ。 「……で?柚原光輝とは?……やったのか?」 「……親がこどもに聞くセリフじゃないですね」 「ふん。お前があんなに俺に反抗するからだろう。今更反抗期か?あんな……出世欲もなさそうな、ただの平社員を好きだなどと」 「柚原さんを悪く言わないで」 パシッと、俺は父の手を払った。 すると父は、想定内のような顔をして意地悪く微笑む。 「なんだ。一度肌を重ねたくらいで恋人気取りか?柚原は、お前に見合うような男ではないと言っていたが」 「……そんなことはない。彼は月曜日、俺を優しく抱いてくれた」 そう言うと、父の顔色が変わった。 俺は、メガネ越しに不穏な空気を感じ、父から離れようとしたが、一歩遅かった。 ぐっと腕をつかまれる。 「………痛っ」 「やはり抱いたのか、あいつ。お前を」 「……っ、誤解しないでください。俺が、彼に抱きついただけです。柚原さんが、今日はなにもしないでおこうと言ったところを、俺が無理矢理……。それ以上変なことはしてません」 「…………本当だな?」 「……というか、23歳で……親にそんなこと正直に詳しく話す息子がいますか?」 「他所は関係ない」 「…………とにかく、俺は柚原さんが好きです。告白もしました。もし、柚原さんがオッケーしてくれたら、普通の恋人として付き合います。その時は……本当に抱いてもらうから」 父はそう言いきった俺を見て固唾を飲んだ。 そしてゆっくり、俺から手を離す。 「……柚原に、お前と寝てやってくれと言ったのは俺だ。……わかった」 「え、本当?」 「ただし明日の就業後、柚原をここに呼び出し、そのときに柚原がお前と付き合うとはっきり宣言すれば、な」 「えっ?明日?」 「告白したのは月曜だろう4日もある。考える時間としては十分だ。早速柚原に明日の予定を伝えるよう手配しておく」 父はそういうと話はついたと言い、俺の部屋を出ていった。 ………4日、しかないけど、大丈夫だろうか。 俺と同じで父もかなりせっかちだ。 ーーいや、俺が父にそっくりなのか。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

96人が本棚に入れています
本棚に追加