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あれから、2週間程が過ぎた。
俺が上条からの告白を受けてからはまもなく3週間。その間、2回、上条の部屋に泊まった。
いずれも社長命令だった。
長引かせることをやはりあまり良く思っていないらしく、こうなったらさっさとやることやってくっついてほしい、と逆に開き直るようになっている、と上条から聞いたときは、この親子は一体どれだけ過激な会話をしているんだ……と、若干引いた。
命令通り、俺は上条の部屋に泊まり、夕飯をご馳走になり、シャワーを借り、一緒にベッドに入った。
俺からキスもしてるから……そうなることは自然だった。でもやっぱり、最後まではできずにいた。
だって、返事もしてないのにやることだけやるって……やっぱなんか、違う。
上条は、最初は納得していたけど、数日前に泊まったときは、少し不満そうだった。
ーーそりゃそうだよな。返事を待たせているのは俺なんだ。
告白の日から、段々時間が経つにつれ……上条を知るにつれ……俺の心は少しずつ変化していった。
そして3度目のーーいや、最初を入れたら4度目の、上条の部屋に来た。
前と同じように夕飯を頂き、シャワーを浴びた。
初めて上条の方が先に部屋に戻っていた。
俺が「お疲れ様」というと、嬉しそうにこちらを振り向いて笑った。
「お疲れ様です、柚原さん」
「今日も悪いな。飯に風呂に……」
「気にしないでください。父が、強引に日にちを決めてしまってすみません」
時刻は23時近くになっていた。いつもより遅い。あまり雑談する時間もなさそうだなと思っていると、上条も同じことを思っていたのか、「もう寝ますか?」と言った。
「明日祝日で休みですけど……お疲れですよね」
「そうだな、上条もだろ?」
「俺は……それは、そうですけど……」
「……けど?」
俺が聞き返すと、上条はくるっと背中を向けてしまった。
「上条」
「………柚原さんが、部屋に泊まる日は、……疲れていても、緊張して、寝れません………」
「……!」
上条はそう呟き、寝室の方へ歩いていく。
俺は、思わずその腕をつかんだ。そして、腕の中に上条を抱き寄せた。
「ーーーごめん」
「……っ、ぅ」
「……泣かせるつもりはなかった」
「………違、違うんです。これは……」
「ごめん、俺が、こんなこといつまでも続けてるから……だよな」
抱き締めながら上条を見ると、その瞳には涙がいっぱいになっている。
1ヶ月、か。
最初に提示された4日と比べたら随分長い。
自分でもせっかちだと認める上条や社長からしたら、よくここまで待ってくれたと思う。
俺は、嫌がる上条の顔を両手でつかんで、目を合わせた。
「………っ待つと言ったのは、俺ですから」
「……うん」
「ちゃんと、待たなきゃ……約束守れない男なんて、最低だし……」
「上条、」
少し遅れて、俺の言葉に「はい」と返事をした上条の口を、俺は自分の口で塞いだ。
一瞬、上条の身体が固くなる。
「んん……っ」
「………上条」
「……ぁ、は……い」
「遅れてごめん。……俺も、お前が、好きだ」
「!」
「付き合いたい。ちゃんと。恋人になって、ちゃんとお前を抱きたいんだ」
ーー俺は。
確かに、そんなに、欲がなかった。
特別報酬って言ったって、バカ正直に自分の願望を社長に言う度胸もなかったし。
それが、まさか逆に、社長や上条の目に止まるなんて、考えたこともなかった。
「……ゆ、柚原さん」
「……うん」
「今の………返事、ですか?」
「うん」
俺が頷くと、上条のその瞳から涙がこぼれた。そして、俺たちはぎゅっと抱き締めあった。
「ーー嬉しいです……」
「もう……泣くなよ。お前を泣かせたなんて、社長にバレたら俺、一体どうなるか………」
「大丈夫です。これは、嬉し泣きなので」
ちゅ、と上条が俺の頬にキスしてくる。
……まったくこいつは、本当に俺のリズムをよく乱してくれる男だ。
そのままベッドまでいき、ふたりで布団に入った。
「……今日は『最後までしても、いい』ですか?」
「ーー社長には、黙っておけよ。……秘め事なんだから」
俺がそう言うと上条は嬉しそうに、「わかりました」と笑って言った。
柚原光輝、30歳。
俺の生活を一変させたのは、会社の社長の息子ーー俺の恋人、上条蒼也だった。
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