恋人になった夜

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恋人になった夜

side 柚原光輝 『最後まで』………と、言ってもなぁ。 こいつ、確か初めてじゃなかったっけ? 俺は、ベッドに仰向けに寝転ぶ上条を見下ろしながらしばし考えた。 「………柚原さん?」 上条はそんな俺を、期待と不安が混ざったような顔で見てくる。 「あのさ、上条……」 「はい」 「……その、お前さ実際……、したことあるのか。男と、『最後』まで……」 そう聞くと、すぐに上条の顔が赤くなる。 ーーいやいやいや、聞くんじゃなかった。ないやつだ、それ、やっぱ。 「……父からなにか聞きましたか?」 「あー……ごめん。最初の頃、お前はまだ初体験だって言ってたわ」 「……そうですか」 「いや、だからって引いたりしてねぇから。つーかむしろ嬉しい」 「柚原さんは……ありますよね、勿論」 じっ、と上条がメガネのレンズを通して俺を見てくる。うっ、となった俺だがここで嘘ついても仕方ないしな。大体俺は、こいつより7つも年上なんだ。 「あの、同期の、女性とか……?」 「えっ?」 「前に食堂でお会いした……」 「は!?吉江?いや、いやいやあいつは違う!本当にただの同期だから」 そんな前のことよく覚えてるな。俺はとりあえず全力で否定した。 「……じゃあ他に?」 「まぁ一応……彼女は、いたことあるから……。でも、男は初めてだぜ。神に誓って!」 「……はい、わかっています」 「俺はさ……お前に無理させたくないし、その、絶対に今日、繋がらなくてもいい、というか……これまでみたいに触れ合うだけでもまだ……いや、お前を抱きたいのはマジなんだけど……うまくできるかどうか、俺もわからないというか」 告白を受けておいて、抱きたいと言っておいて情けない話だが。 ゴニョゴニョと段々自信がなくなる俺を上条は大人しく眺めるように見た。 そして、「柚原さん」と俺の名前を呼ぶ。 「大丈夫です。柚原さんのしたいようにしてください」 「上条……」 「今日は俺、返事をもらえただけで胸いっぱいだから」 にこっ、と微笑む上条はとてもかわいく見えた。俺はそんな彼のメガネを外して、口づけた。 「………ぁ、」 「上条……お前、かわいすぎ」 「え、……んん」 ーー今まで、あの社長が溺愛してきたその男が、俺の腕の中でこんな顔してるなんて。 とてつもなく悪いことをしているような気持ちになると同時に、まさか、という嬉しさや喜びも感じてしまう。 キスしながら服を脱がせた。上条は俺の行動に合わせてくれる。俺も上を脱ぐと、バサッと服がベッドから落ちた。 そのまま、上条の上に体重をかけながら首元に唇を寄せ、痕をつけるように吸うと、「ひっ」と上条の喉が鳴った。 「……っ、あの、……ゆ、柚原さん」 「なんだ……やっぱり、……怖いか?」 「怖い、わけではなく………今までと違う……」 「!あー……まあ、それは……」 「……恋人になった、から?」 柚原はくりっとした瞳を向け俺に聞く。 たしかに今までは抱き合うのも遠慮がちにしてた。本当にこいつに触れていいのか、触れちゃいけないのか、判断を迷っていたから。 でも、今日からは違うだろ。 「いやなら言えよ。止めるから」 「……いやじゃない。……嬉しい」 「お前さぁ……」 「?なんですか」 「いや……いい。俺も、やりたいようにやってみるから」 そう言って上条の、首や鎖骨、胸や腹を順番に撫でていった。今までより優しく、今までより激しく。 やがて手を下の方へ滑らすと、上条の身体がびくっと揺れる。 「……あ、」 「固いな……」 「すみません……」 「なんで謝るんだ。俺だって……ほら」 俺は、上条の右手をつかんで自分の方へ引き寄せた。 「わっ、……柚原さん、」 「……男となんて、考えたことなかったけどこんなになるんだな。いや、お前だからか」 「……あの、下も脱いでいいですか」 上条が腰を動かしながらそう言うので、俺はズボンも取り払ってやった。 「積極的だな」 「え?あ、だめですか?」 「いや、全然」 「……柚原さんに告白して、から……俺、変なんです」 「え?」 「夜になると……勝手に身体が熱くなってくるし、前に、一緒に触り合ったとき、すごく気持ちよくて、忘れられなくて。その、自分でつい触りたくなって。……気持ち悪いですよね」 上条は、口元を手でおさえながら恥ずかしそうにそんなことを言った。 ………いやいやお前、それはあれじゃん。あれだよ。わかってないのか? 俺は、上条の下着の上からゆっくりそこを撫でながら聞いた。 「お前の性教育はどうなってんだ……」 「んっ……え?」 「いや、それはあれだろ?俺のこと考えてしてくれてたってことだろ。全然気持ち悪くないから。つーか逆に興奮する」 「えっ、あの、」 じわ、と下着が濡れてくる感じがしたので俺はそのまま中に指を滑らせた。触ると、すでに濡れている。 「ゆ、柚原さん……っ」 「これ、想像したの?俺に触られてるの考えてイきたくなった?」 「あっ、ぁ、……なん、で、……っ」 左手で、俺の手を止めようとする上条の両手をつかみ、頭上で押さえ込んだ。右手は上条に触れたまま力を強くしていくと、上条の喘ぎ声が上がる。 ーーーっていうか、ヤバイなこれ。こんな拘束みたいなことするつもりなかったんだけど、大丈夫かな。社長にバレたらクビだけじゃ済まないかも。 「……ゆ、柚原さ……っ、だめです、手……はなし……っ」 「……やだ」 「えっ、でも、なんかだめだから……っ、そんなに強くされたら、なんか、俺っ」 「上条がこのままイったら離してやる」 えっ、と眉をひそめる上条に、俺は噛みつくよう唇を重ねた。 右手の中で上条がびくっと震えたような気がした。 キスしながら、そのまま動かすのを続けているとやがて上条がドクドクっと震えて白いものがこぼれ出た。 「……………上条」 「……は、ぁ……っ、ーーあ、ご、ごめんなさいっ!」 上条はガバッと起き上がった。俺の右手と自分の腹あたりを見て、赤面しながら頭を下げてくる。 「すみません!よ、汚して、しまって」 「ううん。全然大丈夫」 「あ、洗いますか。そこ、カウンターに洗面台あるから、」 慌てながら上条が部屋の入り口の方を指差して言う。自室に洗面台まであるとか便利だな。 俺は必死になっている上条を左手で頭から抱えるように抱き締めた。 「手荒なことして、悪かったな」 「あ、……いえ。こんなのも初めて、です」 「あ、ちょっと待て。誤解されると嫌だから言っとくが、俺はそんな変な趣味ねぇから!いたって普通のことしかしない、と思う」 「変な、趣味……?」 「あ……いやだから、拘束したりすんのが好きなわけじゃねぇから……。今はなんでか勝手に」 って、なに言ってんだ俺は。 上条は、?という顔で俺を見る。 ……今まで自分でしたこともなかったのかな、こいつ。一体どんな風に学生時代過ごしてきたんだ。 「あ、あの……俺は大丈夫なので、柚原さんそれ、洗って……」 恥ずかしそうに俺の右手を見ながら上条が言う。俺は少し考えたあと、ドサッとこいつの身体をまたベッドに押し倒した。 「まだ、いい」 「え!?いやでも、」 「………濡れてた方が、入りやすそうだから」 俺は、そのまま濡れた右手を上条の後ろの方へ回した。 「えっ?あ、……ゆ、柚原さん!?」 「…………初めてだから、痛かったら言って。止めるから」 「あ、え……あのっ」 そして俺は、上条自身も知らない場所へと手を進める。 俺に抱きつきながら、それを耐える上条を見ていると、それだけでどうにかなりそうだ。 ーー社長もこんな上条は知らない。俺だけが知ってる。 俺はやがて、そんな雑念すら頭から消えて、上条を抱いた。 こいつを、社長の息子から俺の恋人にしようと心に決めて。 end.
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