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「……寝不足っすか、柚原さん」
「まあな」
翌日、出勤すると、俺を心配した加古川が急いで寄ってきた。
「それで昨日は?大丈夫でした?」
「………ああ。加古川のことは一切バレてないから、安心しろ」
「えっ、マジすか?良かったぁ~昨日めちゃめちゃ気になって~!」
そう言ってやったら、加古川は安心したようだ。口調が軽くなる。
俺はそのまま自分のデスクに座った。
「おはようございます」
すると、一応時間差で出ようということになり、後からタクシーから出てきた上条が事務所に入ってきた。
「あ、上条さん~おはようございます」
「加古川さん。おはようございます」
丁寧に挨拶しながら、上条は俺の隣に座る。
……昨日、同じベッドに入ったとは思えないくらいだ。
上条はそんなことなかったかのような涼しい顔で俺にも挨拶した。
「おはようございます、柚原さん」
「……あぁ、おはよう」
……俺はうまく挨拶ができただろうか。
隣に座る上条の気配を感じながら、俺は昨晩の上条のことが気になってしかたなかった。
ちらっと上条を見やると、視線が合った。
ーー思わず、ドキッとする。
昨日……俺は上条と一夜を過ごした。
『最後までしなくていい』という上条の言葉は守ったが、気づいたらお互い触れられるとこには触れていて、ほとんど抱きあったも同然だった。
目を閉じれば鮮明に上条の昨夜の姿が想像できた。
…………俺はこれからどうすればいいのか。
社長には、後日詳細を報告することになっているし、上条にも告白の返事をしなければいけない。
社長の溺愛する息子に対して、あんなことをしてタダで済むとは思っていない。
頭を抱える俺を、隣から上条が心配そうに覗きこんでくる。
「柚原さん?大丈夫ですか?」
「あ?……っ、あぁ。大丈夫」
「………あの」
「……え?」
上条が、そっと俺に近寄り小声で言った。
「昨日のこと、嬉しかったです。返事、待ってますね」
「ーーっ!?」
ガタッ!と椅子が引いた音が響き、皆が一瞬何事かとこちらを見た。
俺は慌てて、椅子を元に戻し「なんでもないです」と周囲に謝った。
その様子を、この御曹司は随分楽しそうな顔で見ていた。
そんな顔するなんて、知らねぇぞ。
赤くなる俺とは真逆の、涼しい顔をする上条を見ながら、俺は心の中で舌打ちした。
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