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的確な状況判断のできるヒート先輩や、書類の見直しをしてミスを発見し、素早く対応していた大槌先輩。ミスがあることは残念だけど、完璧な書類を作ろうとする気概を感じることができた。
先輩たちがそんな働きをしているのなら、下にいる社員だって、手を抜かずに同じように働くはず。
そんなことを考えながら、コピーが終わった書類をまとめて、ホチキスでとじていく。できあがった書類の中身を拝見してみたが、読みやすくまとめられていて、好感を抱くものだった。
(第一と第二がわかれた本当の原因を、あとでお父さんに聞いてみよう)
「花園くん」
束ねたコピーを抱えて部署を出ようとしたら、林さんに呼び止められた。
「なんでしょうか?」
「午後からの会議の準備も、第二がやることになってるけど、花園くんは第一の社員なんだから、手伝わなくていいからね」
それは僕の指導係として、林さんが告げた命令だった。
「申し訳ないですが、僕は現在第二で仕事をしている立場です。第二の方に仕事を任されたら、それに従うことにしてますので」
頭を深く下げてから部署を出る。第一と第二を行き来するだけでこんなに神経を使うとは、思いもしなかった。
「大槌先輩、コピー終わりましたので、ホチキスしてまとめておきました」
目の端にヒート先輩の存在を感じつつ、大槌先輩のデスクに赴き、抱えていた書類を手渡す。
「花園くん、ありがとう! 助かったよ」
「僕にできることなら遠慮なく、なんでも仰ってください。それではほかの仕事を頼まれておりますので、失礼します」
午後からの会議に使うものを買い物するかもしれないと考え、急いで加納先輩のもとに向かった。僕の姿を見た途端に笑顔になる彼女に微笑み、一緒に買い物に出かける。そして、率先して荷物持ちをした。
そのまま午後の会議をおこなう会議室の準備を手伝い、第二営業部に戻ると、ヒート先輩はコピー機の修理を終えたのか、ワイシャツ姿でデスクにてパソコンと向き合っている姿が目に留まる。
「島田先輩、会議に使う資料のコピーと、買い出しの荷物持ちを終えました」
僕がヒート先輩の背中に向かって話しかけると、驚いた顔で振り返る。
「え? もう終わったのか?」
「はい。ついでに、会議の準備も手伝ってきました」
「マジか、仕事早いな」
目を瞬かせながら僕を見上げるヒート先輩の視線に、自分が入っていることを意識したら、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「ぁ、ありがとう、ございます……」
上擦った声で返事をしてしまい、失敗したと思った刹那、ヒート先輩の大きな手が僕の頭を無造作に撫でる。
「おまえ、やっぱすげぇな。俺が新人のときなんて、なにをしたらいいのかわからなくて、右往左往するのが精いっぱいだったぞ」
(ヒート先輩の手が、率先して僕に触れている――)
髪型が崩れる勢いで撫でられても、全然嫌じゃなかった。むしろもっと褒めてもらいたくて、そのまま口を開く。
「第二営業部のことをもっと知りたいので、僕にできそうな仕事を任せてください!」
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